■ホームランバッターへ

 3年の選抜甲子園は、投手としては満足のいく投球ができなかった王だが、バッティングでは大いにアピールした。2回戦の御所実業高校、準々決勝の済々黌高校戦と連続ホームラン。大会2ホーマーは、30年ぶりとなる4人目の快挙だった。しかも、2本のホームランは左右に打ち分けたものだった。「御所実戦では、2ストライクに追い込まれてから、外角高めのストレートを打った。完璧なフォームで打てたわけではないけど、打球がよく伸びてくれて、レフトのラッキーゾーンに入ったんです」と、王は回顧する。ラッキーゾーンだったと謙遜するが、当時は木製バット(金属バットの使用は1974年から)。王のパワーは、凄すさまじいものがあった。

 2本目のホームランは、済々黌高のエース左腕のカーブをライトスタンドに運んだものだった。スタンドから目を光らせていた阪神の佐川直行スカウトは、この2本のホームランを見て、王が大打者になると確信したという。佐川は王が早大進学を希望していることを知っていたが、獲得に動き出した。「正直言って、3年になった頃は、ピッチングよりバッティングが面白くなっていましたね」とは王の弁。早実OBで朝日新聞運動部記者の久保田高作も、王の“変化”に気づいていた。「最上級生になったということもあるんだろうけど、王はバッティングする時間が長くなっていた。気持ちよさそうに打っているから、やめさせるのもどうかと思って。それに、まあ見事なバッティングをしている。卒業してプロに行くか、大学に進むか分からないけど、どちらにしても、王はバッターでいくだろうね」

 久保田は当時、親しい同僚記者にこう明かしている。王の打者転向を見抜いていた関係者は、もう一人いる。プロを引退し、中大野球部の監督になっていた加藤正二(中日OB)だ。「久保田さん、王のバッティングセンスは非凡なものがある。あれは絶対にバッターにしたほうがいい。すごいホームランバッターになるはずだ」

 久保田や加藤は当時、王に打者転向を助言したわけではなかった。ただ、王本人は、「プロに行くならバッターで」と、密かに心に決めていたという。王獲得に向け、いち早く動き出していた阪神も、のちに王争奪戦に加わる巨人も、“王の打撃”を買っていた。(続く)

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