■ネグレクト問題の根の深さ

 栃木県日光市で子どもへの虐待防止、養育が困難な家庭の訪問支援などを行っているNPO法人「だいじょうぶ」の畠山由美理事長に、ネグレクト家庭で育った子どもについて聞いた。

「ネグレクトというのは、暴力を伴う虐待に比べて非常に根が深い問題です。子どもの心へのダメージは生きる力をなくしてしまうほど大きいもの。外から見えない心の傷は成人になって精神疾患にかかりやすい、といった影響を残してしまいます」

 畠山氏によると、ネグレクトを経験して成長した人にとって「強迫観念」が、キーワードになってくるという。

「子どもの頃にゴミ屋敷で生活していた女性がいらしたのですが、大人になってから過剰ともいえる潔癖症になってしまったんです。とにかく掃除や片付けをしていないと落ち着かない状態だったのですが、根底に“掃除を怠けたら昔のような、ゴミ屋敷に逆戻りする”という危機感があったんです。遠くから見れば、この女性はただのキレイ好きに見えるかもしれませんが、心の底に幼少期にゴミ屋敷が生活した苦しい経験があるのです」(畠山氏)

 そして大東の別居婚には「経験」が関係しているのではないかという。

「人間は経験したことしか再現ができません。パパがいてママがいて、食卓においしいご飯が並ぶといった一般的な家庭を経験していないと、大人になったときに理想とする家族像が描けなくなってしまいます。大東さんも一般的な家庭で生活した経験がなく、そもそも家庭とは何かがわからない。目指すべき家族の姿が思い浮かべられず、どうして良いかわからなくなってしまい、自信が持てなくなってしまったのではないでしょうか。

 家族が別々に生活する、という大東さんの決断は真面目に精一杯考えて出した答えだと思います。大東さんには“自分が家族を傷つけたらどうしよう”という強迫観念があり、そこから別居という選択肢が出たのかもしれません。いじめを経験した子どもが進学先や転校先で、傷つくから友達は作りたくない、と考えるのと似ていると思います」(前同)

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