■転がり続けていかないとダメだな
以来、できうる限りの準備をして演じるよう、肝に銘じています。テレビドラマで寿司職人の役をすることになったときは、2日間だけだったけど寿司屋さんで修行させてもらいましたし、『人間合格』という芝居で太宰治役を演じたときは、太宰の作品を全部読みました。正直言うと、読んでもよく分からないところもあったけど、演じさせてもらう人が書いたものはすべて読むのが最低限の礼儀だと思って。
そんなふうに生きてきて、去年の6月に還暦を迎えました。60歳になってしばらくは、特に思うところもなかったんですけど、だんだん人生について考えるようにはなってきましたね。
俺はこれからどういうふうに生きて、何歳で死ぬんだろうか……。そんなことをふと考えるようになった。そして「転がり続けていかないとダメだな」って思うんです。“ローリングストーン”ですよね。「俺」という石にコケが生えないように転がり続けよう。簡単なほうより、難しいほうを選び続けよう、と。
できることなら舞台の上で、一番好きなセリフを言った後に死ねたら最高ですね。
昨年、『ゴドーを待ちながら』という芝居をやらせてもらったんですが、これは僕にとって非常に特別な作品です。念願かなって演じることになった「ウラジミール」役。ものすごい長ゼリフの最後に、「オレたちはゴドーを待っているんだ」と言うんですけど、これが一番好きなセリフです。
いつか、「ゴドーを待っているんだ」と言って、パタッと死ねれば、本当に最高ですよね。共演者には迷惑かけちゃうと思うけど(笑)。それまではずっと現役で、転がり続けていきたいですね。
大高洋夫(おおたか・ひろお)
1959年、新潟県生まれ。大学在学中、鴻上尚史と共に劇団『第三舞台』を旗揚げし、ほぼすべての作品に中心俳優として出演。現在は舞台だけでなく、映画やドラマでも活躍中。代表作は舞台『朝日のような夕陽をつれて』『楽屋-流されるものはやがてなつかしき-』、映画『いぬやしき』、ドラマ『スローな武士にしてくれ』など多数。出演映画『はるヲうるひと』の公開が控える。
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