乃木坂46白石麻衣
乃木坂46白石麻衣

乃木坂46「個人PVという実験場」

第7回 乃木坂46を象徴する人物だった白石麻衣の個人PV史 3/4

■白石麻衣も乃木坂46もまだ頼りない存在だった頃

 乃木坂46のデビュー3年目以降、白石麻衣の個人PVにおいて相次いで制作されたのは、『完璧と敗北』『Doll』『白石麻衣似の多田敦子』といった、彼女のもつ著名芸能人としてのアイコン性や「完璧さ」のイメージを前提にした作品群である。

 それらの作品は、白石の際立った存在感の背後に、あえてネガティブさやままならなさを見出そうとする志向をもっていたが、これは彼女がグループ活動においてもモデル業をはじめとする個人活動においても、順調にキャリアを築いていたゆえに生まれ得た表現だった。

 しかし、もちろん乃木坂46や白石が活動初期からそのような卓越性を持っていたわけではない。AKB48グループがSKE48、NMB48などの姉妹組織を増やしながら勢いを拡大していた2010年代前半、女性アイドルグループの標準装備であった日常的なライブの場も個別メンバーレベルのSNSアカウントももたない新興グループの乃木坂46は、まだ確固たる強みを手にしてはいなかった。

 2019年の「乃木坂46 Artworks だいたいぜんぶ展」に象徴される丁寧なクリエイティブも、その一部である個人PVも、乃木坂46が社会的に大きな存在になった現在から振り返るからこそ、着実なあゆみとして位置づけることができる。

 しかし、キャリア初期の個人PVはまだ、その成果の如何も不明な実験的企画に過ぎないものだった。そもそも、活動歴のまだ浅い当時、「AKB48の公式ライバル」という言葉の意味するところもおぼつかない段階の乃木坂46にとっては、アイドルシーンに自らの安定的な居場所を見つけることさえ容易ではなかった。

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