■現在から振り返ると分かる「プロローグ」

 デビューからおよそ一年後、5枚目シングル『君の名は希望』に収録された白石の個人PV『ひとりごと』(監督:森田一平)では、いまだ乃木坂46も白石麻衣個人も、小さく頼りない存在であるという認識のもとに言葉がつづられている。

https://www.youtube.com/watch?v=9CtrdpuBSrY
(※白石麻衣個人PV「ひとりごと」予告編)

 白石自身によるナレーションで語られるのは、「彼女が消えてしまっても、世界は何も変わらない」という言葉、すなわち無力で小さな存在として白石を位置づける視点である。前回、前々回の記事でみてきたような、「特別な存在」としての彼女とは大きく隔たった、絶対的なアイコンになる以前の「白石麻衣」像がここにはある。

 白石によるナレーションはやがて、彼女にとって乃木坂46に加入したことが一大転機であったことや、グループやメンバーへの愛着や尊重の念へと続いてゆく。さらに終盤で語られるのは、いつか乃木坂46が世界を変えてしまう日が来るかもしれない、それまでこの場所に居続けようと思っている、というささやかな決意である。

 グループの先行きも定かでなく、いまだ小さな存在であった時期につづられたそれらの文言は、ともすれば聞き流してしまうかもしれないような、オーソドックスなものである。だが、このシンプルな言葉たちは、制作された頃と今日とでは、その手触りも意義も大きく変化している。

 乃木坂46がアイドルシーンの中心に立ち、白石が絶対的なアイコンになるという景色は2013年早春当時、具体的に思い描くことはきわめて難しかった。そのため、この個人PVが発表された当時、作品内で語られる言葉はあてどのない夢想のようでもあった。しかし現在の地点からあらためて再見するとき、白石によるナレーションはその後の順調な成長物語を見通すプロローグのような趣きさえ感じさせる。

 もちろん個人PVは一作一作、独立した作品である。ただしまた、ある時点における乃木坂46や個々のメンバーの立ち位置やパーソナリティを留めるアルバムとしての機能も密かに担っている。

乃木坂46「個人PVという実験場」

あわせて読む:
・白石麻衣『パスポート』に見るアイドルでいつづけることの難しさ
・乃木坂46筒井あやめが北川悠理に催眠術をかけられた理由とは!?
・白石麻衣『パスポート』女性にも支持され「着衣で最も売れたアイドル写真集」となった意味
・乃木坂46白石麻衣は運勢的にも「美の化身」今後は女優として内面を磨く時期⁉【美女の運勢占います!】

  1. 1
  2. 2