若月佑美が個人PVで多く表現してきた「別れ」と「転機」【乃木坂46「個人PVという実験場」第9回 3/3】の画像
※画像は乃木坂46『夏のFree&Easy』より

乃木坂46「個人PVという実験場」

第9回 山田篤宏監督作品 3/3

若月佑美個人PVの「見え方が一変する」経験

 ここまで、乃木坂46の個人PVにおいて山田篤宏が手がけてきた作品群をみてきた。複数の人物間のコミュニケーションのうちに映像的な仕掛けを差し込み、ときにトリッキーに視点を交錯させるような試みを、山田は個人PV/ペアPVのなかで実践してきた。ここではもう一作品、山田が手がけた個人PVに注目し、そうした彼の手際が作品の叙情性を強く引き立てる例を見てみたい。

https://www.youtube.com/watch?v=PrXS1cn3WPk
(※若月佑美個人PV「彼女の思い出」予告編)

 山田は14枚目シングル『ハルジオンが咲く頃』収録の個人PVで、若月佑美主演「彼女の思い出」を手がける。本作は、待ち合わせ場所に遅れてやってきた「彼女」とのひとときが、待ち合わせ相手の一人称視点で描かれるショートドラマ。過去を思い返すような会話や、二人の間に流れるいささかぎこちない空気感から示唆されるのは、二人がかつて生活を共にしていた間柄であるということ。やがて、彼女は人生の大きな決断をしたことを相手に告げる――。

 一人称視点の人物と「彼女」とは、すでに以前のような近い距離の関係ではなくなっている。そして若月演じる彼女の告白は、二人の関係性がさらに、そして決定的に遠いものになってしまうことを暗示する。かつて同じ屋根の下で暮らした日々をフラッシュバックする回想シーンを重ねながら、次のステップに進む「彼女」を見送るまでが綴られる。

 ともに過ごした歳月を顧みるセンチメンタルなテイストの作品だが、ここまでの流れのうちに、山田はひとつのミスリーディングを仕込んでいる。受け手がそれに気づくとき、従前とは違う種類の感傷が生まれ、このドラマの見え方が一変する。山田は個人PVのなかでこうしたテクニカルなアイデアを幾度も試みてきた。そうした仕掛けがトリッキーさ自体を目的とするのではなく、ドラマの叙情性を増幅させるための装置であることを、若月主演「彼女の思い出」の仕上がりは象徴的に示している。

  1. 1
  2. 2