■「別れ」や「転機」を表現するために呼び出される

 実は、「彼女の思い出」と同型のスタイルを用いて、やはり若月佑美を主役に据えたドラマが、別の監督によっても手がけられていた。かねてより継続的に個人PVに関わり、また多くのMV監督も務める中村太洸は、山田が「彼女の思い出」を発表する2年前、9枚目シングル『夏のFree&Easy』収録の個人PV「僕の同居人」で若月を主演に迎えた。

https://www.youtube.com/watch?v=ASOUXqivNlU
(※若月佑美個人PV「僕の同居人」予告編)

「僕の同居人」は若月と同じ家で暮らす者の一人称視点で構成され、日々のいとなみを見守るように若月に寄り添う作品になっている。一人称視点の主によるナレーションで進行し、若月と「同居人」との関係の近さがたびたび示されるが、それが誰であるのかが明確に映されるカットは、「画」としては最後まで登場しない。そして、やがて遠くない未来に不可避に訪れる別れの予感と、それまでのプロセスを慈しむような視点に貫かれてドラマは幕を閉じる。

 一人称となる相手を直にビジュアルによっては描かず、間接的な表現を用いながら肝となる設定をクライマックスで明かすなど、「彼女の思い出」と中村の「僕の同居人」とははからずも似通った要素をもつ。そしてまた、「一人称のカメラ視点=ごく身近な誰か」に見守られて儚くも尊い記憶を重ねてゆく役柄を、若月佑美という俳優に託している点も二者に共通するものである。

 グループのなかでも演技巧者であった若月佑美は、個人PVやMVでもしばしばドラマパートを担う人物だった。そしてまた、今回見てきた2作品のみならず、湯浅弘章による「無口なライオン」シリーズ(/articles/-/72362)などのフィルモグラフィーも合わせ見るとき、彼女がさまざまな筆致の「別れ」や「転機」を表現するための俳優として、しばしば呼び出されるプレイヤーであったことにも気付かされる。

乃木坂46「個人PVという実験場」

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