遠藤さくらがアイドルになったことを明確に語る個人PV作品「わたしには、なにもない。」【乃木坂46「個人PVという実験場」第11回 1/4】の画像
※画像は乃木坂46『Sing Out!(通常盤)(特典なし)』より

乃木坂46「個人PVという実験場」

第11回 4期生にとっての個人PV 1/4

■映像コンテンツの蓄積を新世代へ

 先週まで、頃安祐良が監督した作品を通して、乃木坂46が個人PV/ペアPVという土壌で育んできた側面のいくつかをみてきた。頃安は個人PVのなかでたびたび繊細なドラマ作品を手がけ、「演じる者」を育む場である乃木坂46の映像コンテンツにおいて、重要なパートの一旦を担っている。

 前回更新分(/articles/-/81649)では、その蓄積を新たなメンバーに橋渡しする作品として、3期生の吉田綾乃クリスティー主演のドラマ「一ヶ月前、春のうた」にふれたが、今年に入って頃安はさらに新世代のメンバーへとバトンを送ってみせる。

https://www.youtube.com/watch?v=HqmQhbXCqKs
(※佐藤璃果個人PV「ECLIPSE」予告編)

 2020年3月にリリースされた乃木坂46の25枚目シングル『しあわせの保護色』は、グループの顔であった白石麻衣の卒業シングルであると同時に、本年から乃木坂46に加入した新4期メンバーが初めての個人PVを手にする機会でもあった。このとき頃安が担当したのは、佐藤璃果主演のドラマ作品「ECLIPSE」だった。

 計算上、起こるはずのないタイミングで訪れるという日食を待ちながら、一人思索にふけって広大な宇宙とあまりにも小さな自分とを対比する佐藤。彼女の頭の中にオーバーラップするのは、つい先ごろ、同じ団地に住む顔なじみの男子(門田宗大)に告白するも返事を保留された、ほのかに苦い記憶。やがて母親に強いられたお使いで男子と気まずい再会をする佐藤は、思い切って彼を日食見物に誘い出す――。

 佐藤の告白への返事を迂遠な比喩表現で伝える男子のぎこちなさと、その意図が通じていないながら不思議と彼への心理的距離を縮める佐藤。頃安がこれまで手がけてきたドラマ型個人PVのうち、最も爽やかなエンディングを迎える「ECLIPSE」は、演技者としてのスタート地点に立った佐藤の門出にいかにも似つかわしい明るさをもつ。頃安祐良は新4期生初の個人PVのうち、唯一といっていい純ドラマ作品で希望に満ちた後味を描き、演技者集団としての歴史を一歩先に進める役割を果たした。

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