2009年に実施された第1回選抜総選挙では、2位発表の際に1位を確実視されていた前田に対して、悪意に満ちた前田コールが巻き起こった。前田の1位を望まないファンからのメッセージとも取れる前田コールは、10代半ばの少女にとって存在価値を揺るがす大きな出来事だった。

 2010年の第2回シングル選抜総選挙の際には、「私は……負けず嫌いなので、正直悔しいです。でも実は少しだけ、ほっとしている自分がいます。去年1位をいただいたあとに、一番にAKBを引っ張っていかないといけない立場だと思っていたんですけど……。やはり、私には、うまくできなかったみたいです」

 と2位になった悔しさを滲ませながらも、まっすぐ自分の思いをファンに伝えている姿が印象的だった。大勢のファンに囲まれるなかで、「うまくできなかった」とあっさりと白状してしまうのが、不器用な彼女らしくもあった。

 だが、同時に前田は「次は胸を張って、堂々とAKB48のメンバーを引っ張っていけるような存在になれるようにがんばりたいと思います」とセンターとしての決意を口にする。人前に立つのが嫌だった少女が、初めてセンターに立ちたいという感情を露わにした。

 そしてあの伝説的なスピーチが生まれるのだ。2011年に開催された第3回選抜総選挙である。この年前田は2位の大島優子に1万7000票もの差をつけて1位を奪還した。

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