相楽伊織個人PV「映画館バイトの恋」に現れた今泉力哉作品の個性【乃木坂46「個人PVという実験場」第12回2/4】の画像
※画像は乃木坂46『インフルエンサー(通常盤)』より

乃木坂46「個人PVという実験場」

第12回 今泉力哉作品が描く他者との関係性の築き方 2/4

■未確定な関係性をユーモラスに描く

 今泉力哉作品ではたびたび恋愛が描かれながらも、登場人物たちは必ずしも一対一の相思相愛に向かわず、互いの関係性にわかりやすい決着をつけようとしない。そんな未確定の関わり合いのうちに、気まずさやおかしみ、そして登場人物たちなりの誠実さや切実さが絶妙に交錯する。

 乃木坂46の17枚目シングル『インフルエンサー』に収録された相楽伊織の個人PV「映画館バイトの恋」は、今泉が監督を務める作品の中では登場人物たちの関係性が淡く、まだ誰一人深い仲に踏み込もうとしてはいない段階の物語といえる。しかし、今泉作品特有の、未確定な関係性の気まずさがユーモラスに、また甘酸っぱくあらわれたドラマになっている。

https://www.youtube.com/watch?v=tM5PGli-jtQ
(※相楽伊織個人PV「映画館バイトの恋」予告編)

 映画館でアルバイトをする主人公(相楽)は、バイト仲間の男性(芝博文)に片思いをしている。しかし、彼が好きなのは相楽ではなく、映画館に客としてやってくる相楽の姉(岸茉莉)であるらしい。ある日、彼の心中を察した相楽は気を回し、同居する姉のもとに彼を連れて行く――。

 彼への気持ちを秘めながらアルバイトをともにする相楽は、彼が自分ではなく姉に思いを寄せていることに、それとなく感づいてはいる。そして、ふいに彼が姉へのアプローチをほのめかそうとした瞬間、相楽は決定的な言葉を聞くことを拒むように、彼の話を遮って相手の気持ちを言い当てる。さらには、先回りするように彼の意を汲んで、積極的にアシストするような誘導をしてしまう。

 自らの思いを強く主張するよりも、相手の気持ちを尊重して身を引いてしまうばかりか、前のめりに彼の恋の成就(=自らの失恋)を応援してしまう主人公。自分からほとんど動かないまま恋を諦めてしまう内気さや、好きな相手の気持ちを尊重しすぎる空回りの誠実さが綯い交ぜになった感情を、相楽は適切な控えめさで演じている。

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