行きは渋滞を避けるうち、静岡県の三島市を巡り、湧水で洗われた鰻に舌鼓を打った。では、帰りはどうしよう。まったくノープランだ。

 愛知の小牧市には「コロナワールド」という複合娯楽施設を展開する会社の本拠があり、天然温泉も備える店舗では安城が名古屋から一番近く、なにが名物か調べると、「北京飯」と出てくる。といっても、北京料理ではない。そして、天津飯のように天津にはなくとも、日本国中に知れ渡っているわけでもない。これぞ、ガラパゴスメニュー! 今のところ、安城市民のみのソウルフードなのだ。

 北京本店が草分けであり、その暖簾分け店が安城市内に3軒(小堤・昭和町・高棚店)、近隣の西尾市・武豊市にも同名店が1軒ずつあって、各店で北京飯を味わうことができる。本店の開業は1961年で、当初からあったメニューとか。まかないで作った玉子料理に誤って別のタレをこぼしてしまい、捨てるのももったいないと食べてみると旨かった。それがヒントになったという。

 現当主の杉浦充俊氏が3代目で、先代の父が急逝し、店を継いだのがまだ19歳の頃。父がノートに書き付けた北京飯のレシピを偶然見つけ、それを基に見よう見まねで作っていたが、常連からは「前と味が違う」と文句も出た。それでも彼らのアドバイスを受けながら、3〜4年を経て、やっと先代の味に辿り着いたという。

 そして、店を大胆に改装した09年、食材の見直しを図り、米は地元産のブランド米「あいちのかおり」を使用。この米は香りが強い反面、味が今ひとつ物足りない。そこで7.5分搗きで精米し、米自体の味が楽しめるように工夫した。また、肉も地元のブランド豚「三河ポーク」を用い、卵は養鶏が盛んな豊橋市から取り寄せている。

 だから、各店を食べ歩くマニアにとっても、「本店はひと味違う」と評価されているようだ。また、充俊氏の兄、正崇氏が刈谷市で営むラーメン店「半熟堂」でも北京飯は定番メニューで、本店さながらの味が楽しめるとか。半熟堂は台湾にまで進出したが、いわゆるインスパイア系の輪も広がりを見せ、安城だけでなく岡崎や西尾、半田市にもあるとか。

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