■『エール』に起こった1つ目の奇跡とは……

 1つ目の奇跡は、物語の主軸となる古山夫妻に窪田正孝と二階堂ふみ(26)を据えたことだ。

裕一は、音楽の才能だけは突出しているものの、どちらかといえば周囲に翻弄される受け身のキャラクター。ともすれば存在感がなくなりそうな主人公像だったが、いつしか視聴者が裕一を息子のように応援する気持ちに変わっていったのは、窪田が物語の中で徹頭徹尾、不器用で心優しき裕一という男そのものとして存在していたからだ。

 一方の音は、未来を自ら切り開いていくパワフルな人物像だが、二階堂は持ち前の愛らしさで、時にコミカルに、時に健気に……変幻自在にくるくると変わる表情で、音というキャラクターを魅力的に仕立て上げた。すでに演技派として通っていた2人だけに、キャスト発表時は「新鮮味がない」という声もあったが、窪田と二階堂が織りなす“静と動”の見事なハーモニーは、互いを支え合う夫婦の愛の物語に一層の深みを加えてくれた。

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