とあるオーディション会場の待機室を舞台にしたこのドラマ本編では、最初に登場する吉増のぞんざいな台詞が、物語を駆動させる。携帯電話を片手に、待機室に到着するなり「またどうせくだらないドラマだよ! 変なアイドルとか出るような」と、電話口の相手に吐き捨てる吉増。明らかに舐めた態度を向けられた堀と松井は、やがて奇矯な方法で彼をやり込めながら、いつしか心を通わせていく。

 堀と松井はともにアイドルグループで中心メンバーとして活動しながら、演技や文芸などそれぞれの道を開拓しつつ、またキャリアを重ねるにつれてエンパワーを強く感じさせる発信を続ける人物である。その二人がドラマ作品のW主演として邂逅し、「アイドル」への蔑視をあらわにする相手を静かに打ちのめしていくさまは、後年になって顧みることでまた新たな意義深さを感じることができる。

 一方、不用意な振る舞いの報いを受け、ラストカットで言葉にならない叫びを発する男を情けなく演じた吉増もまた、この作品の中核を担うパーツとして重要な役割を果たした。

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