松村沙友理の個人PV「うそつき」(監督:泉田岳)の舞台設定は、松村とディレクターとが個人PVの企画について打ち合わせている現場である。「良いものを作ろう」と意気込みを語るディレクターだが、その言葉とは裏腹に彼が提案するプランはことごとく、過去に他のメンバーの個人PVで企画されてきた既視感のあるものばかり。ディレクターや同席するカメラマンらの信用できなさに業を煮やした松村が、相手の嘘を指摘するところから物語が動き出す。

 逆上したディレクターと松村は売り言葉に買い言葉で口論を始め、互いの細かな嘘を逐一突っ込み合う展開に発展。傍にいるマネージャーも巻き込みながら、コミカルな会話劇が繰り広げられる。

■アイドルにおける「嘘」と「本当」

 口論の最中、ディレクターは不意に「これだからアイドルは嘘ばっかり」という、ほとんど定型的なアイドルへの偏見を口にする。ここから、本作は単にハイテンポのコメディにとどまらない、複雑な側面を見せ始める。

 アイドルあるいは芸能人の振る舞いを、「嘘/本当」や「表/裏」といった単純な二元論で捉えようとすることについて、その浅薄さを言葉で指摘することはもちろん可能である。

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