■「ズブズブの関係を作るのが目的になってしまっている」
例えば、黒川検事長と賭け麻雀をしていた朝日新聞と産経新聞の記者は、自分が目にしたものを一行も書いていない。なぜ書かないのか。現場にいた彼らが書けないのであれば、何のために黒川検事長に食い込んでいるのか。黒川検事長を家に呼んで麻雀をするのは褒められたことではないけれど、それだけ懐に食い込んでいるのは凄い。新谷は「あの記者が辞めたら特派記者として雇おうか」って話をしていたくらい。ただ、食い込むのは記事を書くためという根本がスッポリと抜けてしまい、ズブズブの関係性を作ること自体が目的になっている。番記者の中で序列1位になったのに、その先がない。ギャグですよ。
賭け麻雀について書けないなら「自分たちはなぜ書けないのか?」を書けばいい。きっと面白い記事になると思う。
でも、ここまでスクープを連発しても『週刊文春』がバカ売れしているわけでは決してない。そこが難しいところ。みんなが『週刊文春』のニュースにびっくりするけど、それが雑誌の購買にはなかなか結びつかない。「新聞を買うのをやめて、その分『週刊文春』を買おう」という意見を見つけた時は笑ったけど。
『週刊文春』こそが本当のメディアだという意見が多数派になれば、いずれ『週刊文春』と直接対決してやろうというメディアも出てくるはず。出てこないといけないし、ぜひ出てきてほしい。大手の新聞やテレビが、たかだか60人弱の編集部で作っている週刊誌に一方的にやられているのはおかしいでしょ。1万人も社員がいるNHKは何をやってるんだと思うよね。
今、『週刊文春』がそんなメディアになっているのはOBとしては誇らしいし、『2016年の週刊文春』の著者としては、ありがたいことなんだけどね。
(取材・文 菊池俊輔)
PROFILE
やなぎさわ たけし
1960年東京都生まれ。ノンフィクションライター。慶應義塾大学法学部卒業後、空調機メーカーを経て文藝春秋に入社。花田紀凱編集長の『週刊文春』に在籍。新谷学とは同時期に『Number』で働いたことも。2003年に独立、2007年に『1976年のアントニオ猪木』で単行本デビュー。
柳澤健『2016年の週刊文春』著者インタビュー
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