■濱口監督は東出の演技を絶賛していた

 濱口監督は『寝ても覚めても』で朝子(唐田えりか)の昔の恋人である麦と、その後であった瓜二つの亮平を演じた東出の魅力について、18年に『ムービーウォーカープレス』でこう話している。

《「まず、第一に“外見”。そこが麦に必要な要素でした。とても大きいから、集団のなかでもひときわ目立つし、黙って立っている時の異質な感じがすごい。また、カンヌで実感したんですが、本当にきれいな顔をしていて、とてもミステリアスな印象を受けます。そこは黒沢清監督作品で最も開かれている魅力だと思っています」

 そして、もう1つの魅力が、フレンドリーで好青年な素顔だと濱口監督は指摘する。

「もう1つの魅力が、フレンドリーで好青年な素顔、東出さんは実際に話してみるととっても“良いお兄ちゃん”で、そこは亮平的要素です。バラエティ番組を観ていても、テレビでこんなに素を見せ、無防備でいる人もあまりいないなと驚きました。その2つの要素を持っていますが、本当の東出さんは内面的にも麦みたいなところがあると僕は思います。それは、周りの目をそんなに気にしないという部分。東出さんのなかでその両面が振り子のように揺れている。今回、その両方の要素を出してもらえたので、とてもいいキャスティングだったんじゃないかなと思いました」》

 今年2月15日にフリーとなり、現在は狩猟生活をするドキュメント作品『東出昌大×MOROHA』を制作している東出。

 濱口監督からは絶大な信頼を獲得していただけに、あの不倫がなければ、世界的な名作という評価を確立した『ドライブ・マイ・カー』で、鮮烈な印象の高槻役を演じていたと思われる東出。逃した「大魚」の大きさに、さらなる後悔はつのる……。

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