■「自由にしていいよ、がいちばんやりにくい」

 今村氏は「僕も出たとこ勝負のタイプなので、最初の頃は、書いた原稿を50枚捨てるなんていうこともあった。話の分かれ道がいくつかあるなかで、そっちに行ったら行き止まり、ということがある。今はなんとなく、この坂を登るのは厳しいけれどゴールだということがわかるようになった。でも、最近また18枚くらい捨てました(笑)」と創作のエピソードを惜しげもなく明かした。

川西幸一

 それに答えるように川西氏は「僕らのバンドは曲が先にできていてあとから歌詞をつける“曲先(きょくせん)”がほとんど。自分ひとりで曲を作るときは、詞も一緒にできることが多いけど、他のメンバーから詞を書いてほしいと依頼されるパターンもある。どんなテーマがいいか聞くんだけど、自由にしていいよと言われる。自由にしていいよ、がいちばんやりにくい」と曲作りについての苦労を述べた。

「そういう意味でいうと、歴史小説って、例えば織田信長は絶対に1582年に亡くなる。決まっていることを点で繋いでいくほうがやりやすい」と今村氏。

「でも、時代物は時代考証が必要だから、書くのは大変なんじゃないかと思う」と川西氏が尋ねると「もともと僕はかなりの歴史好き。頭の中にだいたいのことは入っているから、細川忠興のことを書こうと思ったら“細川家文書”にこういうのがあったなあとダイレクトに国会図書館にあたりに行く。資料を探す時間が、他の作家さんに比べてかなり短いと思います。

 今回の『塞王の楯』でも、穴太衆をテーマにしようとなったときに、資料がないことはわかっていたので、すぐに現地に行って現存している穴太衆を訪ねるということになったんです」と執筆の秘訣を披露した。

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