■伊庭を理解して力を引き出す桐沢の存在

 伊庭は、同級生が退部して最後の1名になってもボクシング部をやめなかった理由は、マネージャーの西山が好きで離れたくなかったからだと、桐沢に打ち明けた。桐沢は、誰かを好きな気持ちがもたらすパワーの強さ、それが高校生活を彩るものだったとしたら、無視できないと考えたのだろう。伊庭は3年生、最後の大会だ。高校生活のすべてをぶつけた試合の後に「おまえ、最高だったんだから堂々とリングの中心で告ってこい」と言う桐沢の懐の深さにまた涙が出そうになった。

 そして、意を決した伊庭はリングの中心に歩み、西山の目の前で告白をするのだ。公然の前で、こんな大胆なの見たことないというほどに堂々とした告白には、もうとにかく感動してしまった。伊庭くん、めちゃくちゃカッコいいよ……!

 しかし、当の西山は、真正面からのストレートにノックアウトすることもなくサクッと断り、次の試合の準備に会場を後にするのだが、この西山の強すぎるストレート返しに会場全体が放心状態になったのは言うまでもない。うっかりゴングを鳴らしてしまった生徒がいなければ、時が止まったままだった。

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