■桐沢の持つ武器は強くて優しい
なんともあっけないフラれ方をした伊庭だったが、気持ちの整理がついたのには理由がある。伊庭が居残り練習をしていた際、注意をした折原に桐沢がたしなめるように言ったことが、ヒントになり繋がる。
「戦うのは伊庭なんです。伊庭の試合で、伊庭の人生なんです。決めるのはコイツなんですよ」
リングに立つことを人生にたとえたのだろう、心に決めていたことをやらずに後悔してほしくないという、経験者特有の意地のようなものが感じられた。
伊庭の努力を見届け、想いを受け止めて後押ししてくれる桐沢がいて本当によかった。桐沢は勝負の世界にいた男だが、試合に勝って栄光を手にしても、人生において勝利し続ける訳ではないことを経験してきた。人の痛みを知っている強くて優しい人は、3話で言っていた「いざという時に、力づくでも自分の大事なものを守り抜くという武器」を持っている人だ。生徒をひとりの人間として捉えて寄り添う桐沢にも、生きがいを見つけて清々しい朝を迎えられるようになってほしい。(文・青石 爽)