■伊庭の涙には強い愛情と信念が宿っている

 伊庭は、常に冷静で他人に優しい、穏やかな人間だ。そして感情が豊かだから、ここぞの場面で目に涙を浮かべては解決を試みる。たとえば、ボクシング部の存続のために、桐沢に公開スパーリングを申し出てリングに上がらせ「本気でやれよ!」と桐沢の体をロープに投げつけるや、ボディに一発入れられたことを泣いて喜んでいたこと。

 校長室に一人乗り込んで、肋骨にヒビが入っていることを隠すため、右の脇腹を叩いて見せうっすら涙を浮かべていたこと。これらは、ボクシング部の存続のために必要だと考えて、自ら実行したことだ。

 望み通り、ボクシング部は存続し、翌年にはインターハイ出場を叶えるまでに急成長した。また、西山にリングの上で告白してサクッとフラれた際には、桐沢の隣で泣いて気持ちを整理し、大学受験勉強に気持ちを切り替えることで東大合格をつかんだ。

 伊庭が見せてくれた青春の素晴らしさには何度も泣かされたし、伊庭のボクシング部への愛情や目標に対する強い信念や努力をする姿は、すがすがしいものがあった。すべては伊庭の人徳だといえるぐらいに周囲の人間関係が築かれ、輪を作っていくのが素晴らしい。

 そして、引退した部長が部室にいても、サクッと東大合格をしても、嫌味なく描かれ生きていたのは、高橋海人が持つ爽やかさであることは言うまでもない。

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