■モハメド・アリ戦に向けて開発

 2位に選ばれたアントニオ猪木の「延髄斬り」は、モハメド・アリ戦に向けて開発された必殺技だった。

「公開スパーリングで延髄斬りを見たアリ側は、猪木の延髄斬りに戦慄。“ハイキック禁止”を求めたので、試合で出すことはできませんでした」(専門誌記者)

 あのアリが恐れた延髄斬り。後年、他の選手も延髄斬りを使うようになったが、本家である猪木のそれは一線を画したという。

「猪木会長の延髄斬りは刀でスパッと斬るように放つんですが、他の選手がやるとパーンと当てる“延髄蹴り”になってしまう。そこは大きな違いだと思います。猪木会長の延髄斬りの練習相手をしていた後藤達俊さんは、首にゴムのマットをつけていたのにフラフラになっていました。それだけ威力があったんです」(田中氏)

■ウエスタン・ラリアットはダンプカーにぶつかった衝撃

 さあ、いよいよ栄えある1位を発表したい。“燃える闘魂”アントニオ猪木を抑え、堂々の「必殺技の中の必殺技」に選ばれたのは、スタン・ハンセンの「ウエスタン・ラリアット」だ。

「ハンセンのラリアットは、“人間発電所”ブルーノ・サンマルチノの首を折った殺人技という触れ込みで、一気に有名になりました。この技でWWWFのトップレスラーになったハンセンは、新日本プロレスに移るや、坂口征二や長州力をラリアットで欠場に追い込み、トップ外国人の座を射止めます」(専門誌記者)

 ハンセンのラリアットが“真の必殺技”なのは、「ハンセンはラリアットを“つなぎ技”には使わず、フィニッシュでのみ使うことにこだわった。ラリアットを出す前のルーティンとして、彼が左腕のサポーターを直した瞬間、ファンは試合が終わると悟ったんです」(前同)

 試合後に暴れるハンセンと対峙したことがある越中氏は、こう述懐する。

「当時は入門3年目。試合後、いきり立ったハンセンを止めに行ったら、ラリアットを食らったんです。あれはダンプカーにぶつかったような衝撃……。そのまま担架で運ばれ、しばらく意識を失いましたね」

 ラリアットも多くの選手がコピーしているが、田中氏はハンセンのラリアットは別格だと指摘する。

「ハンセンは腕にすべての体重をかけて押し倒すので、腕だけで打つレスラーとは違う。プロ経験もあるアメフトのタックルからヒントを得たんでしょう」

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