■川上哲治監督に怒られたが

「相手選手とは口を聞くな」が当たり前の当時、長嶋だけは違っていた。

「あるとき、本塁打した相手が三塁を守るときに、長嶋さんが“ナイスバッティング!”と声を掛けた。それが監督の川上(哲治)さんまで伝わって“敵を褒めるとは何事か”と怒られたらしいんです。でも、長嶋さんは監督に“でも、あれはナイスバッティングでしたよ?”って返したんだと言ってました。そりゃあ、野球にもファンにも愛されるわけだよね」(同)

■“野球と一体化”している大谷

 野球を愛し、野球に愛されたスターぶりでは、大谷も当然、負けていない。

 証言してくれるのは、社会人経由で9歳年上の“ドラフト同期”だった元日本ハムの新垣勇人氏だ。

 1軍を目指す投手として、強敵すぎるライバルを前に、当初は「メジャーに行けばいいのに」と思ったと語るが、そんな思いは、入団して早々に消え失せた。

「新人合同自主トレで初日にキャッチボールの相手をしたんですが、どんなに距離が離れても、ボールが落ちてこない。“これはモノが違う”と、すぐ分かりました。打席に入れば飛ばす打球も、とんでもない。間近で両方見ていた僕らは、二刀流の賛否が分かれたとき、誰もが“あいつならできる”と思ってました」(前同)

■ストイックの次元が違う

 同期だけに、仲間うちで食事にもよく行ったが、酒席の誘いには、当然のように一切乗ってこない。ただ、「つきあいが悪い」といった評判はなかったという。

「ストイックの次元が違うんです。大げさじゃなく、彼自身が野球と一体化している感じ。他の誰もが“頑張って”する練習や節制が、彼にとっては日常として染みついている。かといって、人に壁を作ってるわけでもないんです」(同)

 その最たる例が、日本一になった16年の大晦日。審査員で紅白歌合戦に出演した大谷が出した条件が、「寮が閉まってトレーニングができないので、その場所を確保してくれるなら」。

 別の番組では、打ち上げとして一席設けるつもりだったスタッフに、「社員食堂に行きましょう」と提案したこともあったという。

 それが「翔平の普通」と前出の新垣氏が続ける。

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