「流体」の存在

 同じく地震学を専門とする東京工業大学教授の中島淳一氏も、こう指摘する。

「すべての事例ではありませんが、過去の南海トラフ地震をさかのぼると、発生の10年から20年前に、内陸部で地震活動が活発になっているんです」

 阪神・淡路大震災を起点にすれば、すでに30年弱が経過しており、日本列島は長きにわたる地震の活動期にさらされている状態だ。

 不気味なことに、今年は元旦に起きた能登半島地震を皮切りに、すでに「震度5弱」以上の地震が20回以上も発生している。

 その能登半島地震では「流体」の存在が注目された。流体とは、地下の岩盤内にある高温の水を指す言葉だ。

「地下10キロで300度の高温となる流体が膨張し、地表近くまで上昇して断層に入り込むと、潤滑油の働きをして断層を浮かせます。すると強度が低下して、地盤が滑りやすくなるんです」(全国紙科学部記者)

 流体の存在は、地震波の伝わる速度で推定できるという。流体の状況を測定している前出の中島氏は言う。

「四国の中央構造線(日本最大級の活断層)西側の下あたりで流体が上昇しているのではないかと考えて、注目しているところです」

 中央構造線は、淡路島の南方海域を経て、徳島県鳴門市から愛媛県伊予市まで四国北部をほぼ東西に横断し、伊予灘に至る。そのエリアは、南海トラフ地震の想定震源域とも重なる。

 その中央構造線の断層帯が動けば、最大M8級(最大震度7)の活断層型地震が起きると想定されている。

「仮に、それが震度4程度の規模に終わったとしても、南海トラフ地震の予兆と捉えることもできる。危機感を持って、注視しておくべきでしょう」(前出の科学部記者)

 次項では、南海トラフ地震が日本に引き起こす混乱について、検証していこう。

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