プレートが時差で二度にわたって動く

 さらに、大地震発生の混乱に拍車をかけるものとして危惧されているのが、“半割れ”という現象だ。

「南海トラフ地震は、駿河湾から日向灘にかけての約700キロメートルのプレートの境界を震源とします。そのプレートすべてが一気にずれて動くケースを“全割れ”と言い、プレートが時間差で二度にわたって動くケースを“半割れ”と言います。

 半割れは、東西別々の地域で二度の大地震を引き起こすのが特徴で、全割れよりも広範囲に被害が及びます」(全国紙科学部記者)

 この半割れ現象は過去、南海トラフ沿いで起きた地震で何度も確認されている(最終ページの表内参照。「半」は半割れと思われる地震)。

「1854年には南海トラフの東側で安政東海地震が起きた31時間後に、西側で安政南海地震が発生。1944年に東側で昭和東南海地震が起き、その2年後に西側で昭和南海地震が発生しています」(梅田氏)

 また、南海トラフ地震が起これば、同じフィリピン海プレートで接する相模トラフで、地震が連動する可能性も指摘されている。

 これら過去の事例から、国や専門家は、きたる南海トラフ地震でも半割れ現象に危機感を募らせている。

「昨年、東北・京都・東京の3大学による研究チームが、南海トラフ地震が連続発生する確率を算出し、発表した。

 最初の地震から1日以内に最大64%、1週間以内に最大77%の確率で、後発の巨大地震が発生するという試算が出ています」(科学ジャーナリスト)

 では、そのとき、列島はどれほどの被害を受けるのか。

「現在、発表されている内閣府の南海トラフ地震の被害想定は、全割れの場合で、M9クラスの地震が起きたケースを想定しています。

 半割れの場合、想定されるマグニチュードは8クラスと少し下がりますが、被害は同等か、それ以上と予想されます」(梅田氏)

 そこにも、前述の長周期地震動が関係している。

「長周期地震動は遠くに伝わる性質があり、地震が発生した場所から数百キロメートル先でも大きく揺れることがあります。半割れが起きると、東京や大阪などのビル群が東西の2発の大地震でダメージを受けるので、被害はより深刻です」(前同)

 東西2大都市が機能不全に陥り、道路などの移動経路も破壊されれば、自衛隊や消防部隊による救援・救助活動もままならなくなる。

「もしも東京都と大阪府の2大都市が被災し、政府の機能が一部麻痺すれば、日本全体に影響が及びます。

 半割れ現象が起きた昭和東南海地震と南海地震のときは、戦中戦後だったこともあり、政府主導の避難や救助活動が十分に行えませんでした。次の南海トラフ地震でも、そういった事態を想定しておく必要があります」(同)

 来たるXデーに向け、命を守る備えをしておきたい。

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