東西でまるで違う!? 日本全国「お雑煮の秘密」の画像
東西でまるで違う!? 日本全国「お雑煮の秘密」の画像

 “正月の風物詩”といえば、文句ナシにお雑煮だ。旨味もコクも上等な出汁、色とりどりの肉、魚介、葉物、根菜。そして、弾力、香り、甘味を残す“餅”――ああっ、食べたい! 冷えた身体にガツンと響く、ホクホク椀物の秘密。まさかの50連発、おでましだァ!

「稲作文化の我が国では、米から作る餅は貴重。米は神様への“お供え物”だったんです。新年には、餅とその土地の特産物を一緒にお供えし、“今年も五穀豊穣を!”と感謝も込めて奉納する。その“お下がり”を、鍋で煮ていただくということで、雑煮は生まれたんです」 こう語るのは、元祖B級グルメライターで、『おやじのおやつ』(朝日新聞出版)など多くの著書がある田沢竜次氏。雑煮は神事にまつわる食べ物なのだ。

 雑煮のルーツは室町時代までさかのぼる。当初は武家など上流階級に限られたものだったが、江戸時代の元禄以降、庶民の間に広がったという。「今では“お年玉”というとお金を指しますが、そもそもは、正月の贈答品を意味していたもの。当時はお雑煮も“お年玉”と呼ばれていたんです」(前同)

 神様からのお下がりである雑煮は家族で食べるもの。一方、おせちは客人に振る舞うものと明確な違いがあったという。それでも、おせちよりも雑煮派で、汁物には目がない本誌記者は、椀を片手にいただきます……おつゆと餅をかき込むと、極上です。一発で胃袋が温まる!

 しかし、「お雑煮は、餅に各地域の特産物を加えて作られます。地域ごとの文化の違いもあり、同じ“お雑煮”といっても、まったく別の料理を指すほどの違いがある。実に、個性に富んだ特色が見られるんです」 こう語るのは、地域文化を研究する「ナンバーワン戦略研究所」所長の矢野新一氏だ。「ほら、餅の形も丸餅と角餅とで全然違うでしょう。お雑煮の餅はもともと丸餅でした。ところが、江戸時代に入り、特に全国から人が集まった江戸では餅を大量生産する必要から角餅が出てきた。今では関西の丸餅、関東の角餅といわれますよね」(前同)

 そう、丸い餅は一つずつ丸める手間がかかるが、餅を平らにして切り分ける角餅は簡単だというのは言わずもがな。その丸餅と角餅の分岐点は、およそ新潟県の糸魚川から関ヶ原を通り、熊野や新宮を結ぶラインになる。これは、“アホ”(西)と“バカ”(東)の違いのラインともほぼ重なるという。「とはいえ、例外はあります。東日本でも、山形県庄内地方は丸餅です。江戸時代の物流は船が大きく担っていましたが、その主要航路を運航する“北前船”が、大阪と、今の酒田市を結んでいたためだと思われます」(同)

 餅の調理法も、東西でまるで違う。丸餅は最初から他の具と一緒にグツグツ“煮る”、角餅は“焼く”のを経て汁にブチ込む傾向が強い。これも例外はあるが、煮た丸餅もモチモチでウマいし、焼いた角餅は、これまた香ばしい。

 くぅー!! 味つけも、全国各地でさまざまだ。「しょうゆをベースにした“すまし汁”が圧倒的に多いものの、北陸の一部、近畿から四国の香川、徳島の一部は“みそ”仕立て。みそでも北陸の一部は“赤みそ”、その他は“白みそ”となっています」(前出の田沢氏)

 至る地域に個性あり。これぞ、全国各地“お雑煮の秘密”だ。「すまし汁は、そもそも江戸の味で、それが参勤交代によって全国に広まったものです。一方、宮廷文化(京都中心)の伝統であるみそは、そのまま残ったものだと解釈されています」(前出の矢野氏) すまし汁のスッと身体に馴染む妙味も、みそのコクたっぷりの味わいも全身が温まる。冬にウマい!

 さて一方、山陰の出雲地方周辺には“あずき汁”という珍しい味も。朝鮮半島に“シリット”というあずき餅があり、山陰は、その影響を受けているんだとか。実際に食した田沢氏は、こう言う。「本来は、塩味のすまし汁に、餅とあずきを入れ、その上に砂糖をかけた質素なものだったそうです。しかし、私が食べたものは、ほとんど“おしるこ”みたいなものでした」 おしるこもウマい!

「食文化の画一化が進む中、各地域が、こんな豊かな特色を持つ料理はそうありません。おいしいし、栄養も満点。まさに日本を代表する食ですよ!」(前同)と絶賛するが、確かに見れば全国、個性豊かだ。岩手県の北部沿岸、『あまちゃん』の舞台となった久慈の南に位置する岩泉地方。ここは、天然のクルミの産地で、クルミ雑煮なるものが食べられているという。具は、三陸沖で取れるワカサギ、いくら、あわびなどの海の幸。そこに大根、にんじん、セリなどが入る。

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