「甘いクルミ味のしょうゆダレを小さな別椀に取り、そこに、雑煮に入った角餅をつけて食べる」(矢野氏) おお、あまじょっぱくて美味。しかも、香ばしい! ちなみに、同地方ではおいしいことを“クルミ味がする”という方言がある。

 その南、宮城では焼ハゼ雑煮が有名だ。椀からはみ出すほど大きい、地元・松島湾名産の焼ハゼが目を引く。この焼ハゼで取ったダシ、すまし汁だ。「この海の幸に、地元のセリ、サトイモの茎を干したものなど山の幸も加えます。なんとも豪華」(田沢氏) 関西では、奈良のきなこ雑煮が有名だ。雑煮の餅を取り出し、“あべかわ餅”のように、砂糖入りのきな粉にまぶして食べるのだ。「香川のあんこ餅雑煮も全国的に知名度あり。かつお出汁で取った白みそ仕立ての汁に、あんこ入りの丸餅が入ったお雑煮です。“何やら不気味な食べ物”という感じがしますが、食べてみると白みそと、あんこが意外にマッチして、おいしかったです。昔は甘いものは高級品。せめて正月ぐらいはと、あん入り餅が作られたともいわれています」(矢野氏)

 中国地方に飛べば、牡蠣の産地で知られる広島のその名も牡蠣雑煮。焼あなご、ブリも一緒に煮込む贅沢な逸品だ。「牡蠣は“賀喜”とも書き、“福をかき寄せる”として、正月にふさわしい、縁起のよい食材と地元ではいわれています」(田沢氏) いただきます……くぅ~、濃厚でたまんねぇ!

 縁起がいいといえば、「頭芋を入れていますが、これは、偉くなるようにという願掛けです」(矢野氏) 福岡のブリ雑煮もゲンを担いでいる。地元産の出世魚=ブリがメインのもの。「出汁にはトビウオ、地元産の“かつお葉”という野菜が入ります。名の通り、かつおダシの代わりになるほど風味が豊か」(田沢氏) 豪華さでいえば、鹿児島のえび雑煮もスゴい。地元・出水の特産品、椀からはみ出す巨大な“焼車えび”がドン! 出汁もえび味だ。

 一方、意外にも質素なのが愛知。冠婚葬祭は日本一派手で知られるが、尾張名古屋の雑煮を見ると、具はもち菜(または小松菜)のみ。えっ……本当に本当?「皆が見るところでは金をかけます。ですが、雑煮は家庭の食事。質素倹約を旨とした徳川家康、そして尾張商人の地元ですから」(矢野氏)

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