聞き慣れない単語だが、このテロメアこそが寿命を握る“司令塔”なのだ。「遺伝子の束である染色体は、各細胞の中に1個ずつ入っています。その染色体の末端部分に数珠状になってぶら下がっている構造物をテロメアと呼んでいます。テロメアは、細胞分裂を繰り返すたびに一つずつ、“数珠”が取れて短くなっていきます。そして、“数珠”がすべてなくなったとき、その細胞は分裂することができず、死滅することになります」(同)

 テロメアは加齢によって少しずつ短くなり、個々の細胞が死滅してゆく、いわば“老化時計”のようなもの。そして、“数珠”に限りがある以上、いつかは全細胞が死滅し、同時に個体の生涯が終わる。これが「寿命」のメカニズムでもある。では、人間は何歳まで生きられるようにプログラムされているのだろうか。「結論ははっきりしませんが、理論上では、だいたい140歳から150歳だという説があるんです」(同)

 そうなると、『ネイチャー』に発表された「寿命125歳説」と矛盾するが、あくまで、「寿命150歳説」は、プログラムされた最高寿命の話だ。人間、生きているとさまざまな“摩耗”があり、必ずしも、“プログラム寿命”を全うできない。「その寿命を短くしている要素の一つに、フリーラジカルがあります」(同)

 フリーラジカルとは、分子の一部に欠損が生じた物質のことで、その代表格が活性酸素だ。実はこれ、体内の“過激分子”とも呼ぶべき存在。「活性酸素は自らに欠損があるので、正常な分子からその欠けた部分を奪い取ろうとします。そして、奪い取られた分子は、自らフリーラジカル化、つまり過激化し、今度は別の分子を攻撃して欠損部分を奪い取るんです」(同)

 人間の体内で、この“報復の連鎖”が生じると当然、健康上のリスクは増加。活性酸素が血管を攻撃すれば動脈硬化になり、遺伝子を攻撃すると細胞ががん化することになる。

 簡潔に述べるなら、「プログラム寿命(150歳)-活性酸素による“報復の連鎖”=個体寿命」という公式が成り立つそうだ。活性酸素が大暴れし、どの個体もプログラム寿命を全うできず、個体寿命が短くなってしまうこの“公式”を、「活性酸素寿命(老化)コントロール説」という。であれば、人間の寿命は活性酸素によって短く削られていくしかないのか――。

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