しかし、それを覆す朗報が最近になって出てきた。活性酸素によって短くなった寿命を取り戻し、かつ、それ以上に伸ばせる“ツール”が発見されたのだ。

 それがズバリ、「長寿遺伝子」と呼ばれる遺伝子群。長寿遺伝子研究の権威である白澤抗加齢医学研究所の白澤卓二所長は、こう話す。「線虫の実験で長寿遺伝子の存在はまず、確認されました。1万9000ある線虫の遺伝子のうち、100個ほどの遺伝子を活性化させることによって、線虫の寿命が平均で1.5倍、長いもので5倍も延びることが確認されたんです」

 ショウジョウバエで行った実験でも、同様の結果が得られたという。「実験では、長寿に関係する遺伝子群をカテゴリー別に分類しました。すると、最も多かったのが、代謝に関係する遺伝子群でした。その中でも、糖代謝が寿命を延ばし、かつ、寿命をコントロールすることが分かってきたんです」(前同)

 他方、この実験とは別の研究でも、カロリー制限が長寿に関係することが明らかになっている。最も効果的だったのが糖質の制限。これらの結果から、カロリー制限が長寿に結びつくのは、糖代謝に関係する長寿遺伝子の働きによるものと考えられるようになったのだ。「まず糖を制限すると、糖尿病や肥満になりにくくなります。たとえば、糖尿病にかかると、人間の寿命は10~13歳短くなります。逆に言うと、糖尿病にならなければ、それだけ寿命は延びるわけです」(同)

 糖代謝をコントロールする長寿遺伝子が、寿命のカギを握っているのだ。「もう一つ重要なのは、糖質が制限されると、活性酸素の働きを抑える働きをするケトン体という物質が体内に生まれることです。ある実験で、活性酸素が活発化する農薬をネズミに注射すると、そのネズミはすぐに死んでしまいます。ところが、ケトン体を点滴したネズミは死なないことが分かっています」(同)

 長寿遺伝子は、糖尿病の発生を抑えるのみならず、“長寿の天敵”である活性酸素にも効き目があったのだ。さすがは長寿という名がつくだけのことはある。しかも、それだけではない。長寿に関する最も多かった遺伝子群は代謝に関係するものだったということは先に述べたが、「次いで多かったのはサーチュインと呼ばれる遺伝子群です。サーチュインは7種類の長寿遺伝子からなり、私が注目しているのは6番目の遺伝子(SIRT6)。この遺伝子が、テロメアをガードすると考えられているからです」(同)

 なんと、この遺伝子は“老化時計”そのものに働きかけるというのだ。不老不死は夢だとしても、それにより近づくことはできるかも……。なんだか、希望が湧いてくる。

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