ヒット曲の背景には物語の存在も大きい。「歌には自分の体験、経験が重なってくる。自分と歌われている歌詞が相まってジーンとくる。感動するんです。だから、歌ってすごいよね。人の心を動かすしね。大事なことです」

 都はるみの『北の宿から』(作詞・阿久悠/作曲・小林亜星 75年12月発売)も、そうしたヒット曲の典型と言えるだろう。76年の年間ランキング第3位で、87.7万枚のヒットとなった。

 70年代を代表する演歌で、着てはもらえぬセーターを寒さこらえて編んでいる女性。そんな彼女の像を阿久悠は「東京で不倫をしていた30歳過ぎの女で、宿は信州の温泉」と述べている。北の宿は信州だったのだという。気になるセーターは、「阿久先生は“編み上げてケリをつけた”と言っていて“宿の主人にやった”ということでした」

 男に「死んでもいいか」とまで聞いていたのに、セーターを編むうちに冷静になり、捨てるよりは誰かに、と思ったのだという。しかし、宿の主人に……意外。

 時代を超えて歌い継がれている歌もある。太田裕美の『木綿のハンカチーフ』(作詞・松本隆/作曲・筒美京平 75年12月発売)が、その代表格だろう。こちらは『北の宿から』に次ぐ76年の第4位、86.7万枚を売り上げた。

「現役の高校生も歌ってますよね。メロディーもとてもいい。それに、やはり共感するところがある。自分の好きな男が東京に行く。ずいぶん冷たい男です(笑)。詞は松本隆が書いたんですけど、男が女の気持ちを書いている。こんなことしたら女は悲しむんだろうな、って書くんです。作詞したのが男か女かって、僕は詞の内容を見たらすぐわかります。男が女を語る、女が男を語る、あるいは女が女を語るのと男が男を語るのと違う。そういうのは出てきますよね」

 40年以上前の『木綿のハンカチーフ』が今も愛唱される理由の一つが、歌いやすさだというが、橋本氏が他に歌いやすい曲として推すのが、井上陽水の『少年時代』(作詞・井上陽水/作曲・井上陽水、平井夏美 90年9月発売)だ。カラオケに自信のない人にはうってつけで、高すぎず低すぎずのキーがポイントなのだという。

「周囲に不快感を与えないし、のどかな曲調と美しい詞が人の心を穏やかにする、と言われていますね。どんなに下手でも、上手く聞こえるってことです。下手な人に限って、難しい歌を歌いそうになる。『そして神戸』なんか難しいですよ。でも歌いたくなるんだよね。自分の歌える範囲っていうのを覚えておけるといい」

 さらに続けて、歌う際のアドバイスをくれた。「カラオケでもなんでも歌詞を覚えること。われわれ、歌うときみんな、画面見て歌うでしょ。あれやってると、よく知ってる歌でも一生きちっと覚えられない。1曲でもいいから3番まで歌うことを覚える。そうしたら、脳の活性化にもつながっていくじゃないですか。だから、画面に頼っていたらダメなんです。歌詞の意味を本当に理解すると、あらためて魅力を感じられると思いますね」

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