「認知症治療」最前線~最新の研究は、ここまで進んでいる!の画像
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 人類はこれまで科学の力で幾多の困難を解決してきた。国民を悩ませるこの疾病も、いつか治せる日がくるのだ。

 11月23日、認知症治療に携わる人々の間に衝撃的なニュースが走った。米大手製薬会社の『イーライリリー』社が、アルツハイマー型認知症治療薬『ソラネズマブ』(点滴静注製剤)の開発を断念すると発表したのだ。

 とはいえ、一般人には、このニュースの意味は少々分かりづらい。全国版厚労省担当記者が解説する。「このソラネズマブは、世界中の最先端研究機関が認知症治療薬の開発を進める中、最も早く“フェーズ3”に入り、近く、その結果が発表されるとみられていたからです」

 この「フェーズ」というのは、治療薬が承認されるまでの段階のことで、安全性と効果の臨床試験をしている段階が「フェーズ2」(「1b」と呼ぶ機関も)で、そこで安全性が確認されれば、より多くの臨床試験を行うのが「フェーズ3」。そこをクリアすれば、めでたく承認となるわけだ。「ところが、フェーズ3の結果が良くないと判明したので、開発断念となったのでしょう」(前同)

 競馬で言えば、ゴール目前で大本命が落馬したようなもの、関係者および新薬を夢見る患者には大ショックだったのだ。世界には現在、5000万人ともいわれる認知症患者がいるが、そのうちの約6割がアルツハイマー患者。そのため、新薬開発の中心はアルツハイマー治療薬となっている。

「日本では、すでにエーザイの『アリセプト』を筆頭に4種類の認知症治療薬があります。しかし、これらの効果は、認知症の進行をせいぜい半年から1年遅らせるに過ぎない。対症療法薬で、根治薬ではないのです」(同)

 予防や進行抑制しかできないのが現状なのだ。そこで今回は、認知症の治療がどこまで進んでいるのか、その最前線を覗いてみた。というものの、実は認知症が発症するメカニズムは、いまだによく分かっていない。ただし、アミロイドβというタンパク質が大脳皮質周辺に溜まり、結果、神経細胞が死んでしまうとの説が有力だ。アミロイドβの増加に反比例して脳の中にある海馬は縮小し、それに伴い、脳が委縮する。

 そこで、多くの研究者は、このアミロイドβを除去する“抗アミロイドβ抗体(抗Aβ抗体)”を探した。冒頭の、「ソラネズマブの開発を断念」というニュースが衝撃的だったのは、この抗Aβ抗体を用いた新薬の開発に勤しむ研究者が多数派を占めているからだ。

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