もっとも、前出の牧氏によれば、ゼロからの新薬開発の場合でも有力な効果があるとなれば、介護費、医療費のコストが大幅に抑えられるため、ほどなく保険指定になるという。したがって、庶民でも高額な価格に苦しむことはないのだ。一方、まだ研究は始まったばかりながら、近い将来、さらに有力な「根治薬」と呼ぶにふさわしい新薬が登場する可能性も大いにあるようだ。

「今では認知症は、アミロイドβだけでなく、“タウ”というタンパク質のゴミのようなものが、神経細胞に多く溜まって、初めて発症するようだと分かってきています。このアミロイドβとタウの関係はまだよく分かりませんが、実はタウ除去のほうが重要との見方もあるのです。したがって、今後はタウをターゲットにした新薬候補が多く出てくると思われます」(牧氏)

 その点、昨年末、学習院大学の高島明彦教授らが、不整脈などに使う『イソプロテレノール』という薬にタウの凝縮を阻害する働きがあると発表した件は、まだマウス実験の段階ながら大いに注目されている。今後、認知症治療の治験へ進むかもしれない。そうかと思えば、今年、ノーベル賞を受賞した、大隅良典・東京工業大学栄誉教授の「オートファジー」研究の応用に期待するとの声もある。

「オートファジーは、細胞が、不要になったタンパク質を分解して栄養源に再利用する自食作用。認知症は、“加齢とともに細胞内に悪いタンパク質などが溜まることが、神経の活動に悪影響を与えている”との説が本当なら、オートファジーを利用して、アミロイドβやタウを除去できるかもしれません」(厚労省担当記者)

 さらには、薬ではなく、なんと健康食品だが、東京大学が開発中の『ワクチン米』も注目される。「アミロイドβの遺伝子を入れたコメのことで、これを若いときから食べて体の中に抗体を作り、アミロイドβの増加を抑え、予防しようという試みです」(前同)

 抗体(ワクチン)自体は他の野菜でもいいが、アミロイドβをたくさん作れて、日本人の生活に密接な食材がコメだったというわけだ。「注射だと、およそ6%の人に副作用が見られるのですが、月に2・3回、茶碗一膳の普通のコメにワクチン米を100粒ほど混ぜて食べるだけでいいのですから、こんな楽な予防法はありません」(同)

 以上、見てきたように、認知症根治薬の開発は日進月歩。多くの人が苦しむ前に、一日でも早く開発してもらいたいものだ。

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