「00年代から、この抗Aβ抗体タイプの新薬開発が進められ、その数は20近くにも上りましたが、半分以上が中止を余儀なくされた。それは、アミロイドβを除去できても、認知機能は改善しない臨床ケースが続出したためです」(医療ジャーナリストの牧潤二氏)

 アミロイドβが神経細胞を死滅させるという仮説自体が、間違いではないかとの見方が、だんだん有力になってきたというのだ。「除去ではなく、アミロイドβを作る酵素をカットしてアミロイドβ自体を作らせない『BACE阻害薬』というタイプの新薬も多く開発中です。しかし、現在のところ、いい結果は出ていません」(前同)

 そんな“アミロイドβ仮説”が形勢不利の中、15年3月、米バイオテクノロジー企業『バイオジェン』社が学会を驚かす。世界で初めて、脳内のアミロイドβが減少するとともに、認知機能の低下も抑制したとのデータを発表したからだ。これは、バイオジェン社が開発中の抗Aβ抗体タイプの新薬『アデュカヌマブ』のフェーズ1bの結果に基づくものだったが、この点滴静注製剤が治験対象としているのは、早期アルツハイマー病および軽度認知障害(MCI)の人々。

「MCIは、すでに脳内にアミロイドβが溜まり始めているものの、まだ認知機能の明らかな低下は見られない、認知症の前段階で、ここで放置すると、5年後には約半数の者が認知症に移行するといわれています。多くの抗Aβ抗体タイプの開発薬は、認知症が発症してしまった人を対象にしていますが、こちらは、それより前に取り組もうというわけです」(前出の記者)

 バイオジェン社の日本法人『バイオジェン・ジャパン』広報担当者に話を聞くことができた。

「抗Aβ抗体タイプの他社の臨床事例は、認知症の発症後ではあまり良い結果が出ていなかったので、それなら、もっと早く、MCIの段階ならどうか、ということで取り組みました。フェーズ1bの臨床例は166。プラセボ(偽薬)とアデュカヌマブを、それぞれ1、3、6、10ミリグラム投与したものを比べると、投与量が増えるほど認知機能の低下が少なくなるという結果が示されました。世界中で2700人を対象に行われているフェーズ3に、日本も6月から参加しています。どんな結果が出るか楽しみです」(バイオジェン・ジャパン広報担当者)

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