フェーズ3の終了予定は2022年とのことだが、早く治験を進め前倒しにして、2020年代前半にも製品化を目指したいという。かように、一進一退を繰り返す抗Aβ抗体タイプの研究だが、他の種類の新薬も開発が進められている。

 富士フイルムとグループ会社の『富山化学工業』(東京都新宿区)は、『T-817MA』という錠剤を開発中だ。この新薬は、脳の神経細胞を強力に保護する働きがあるとされるタイプ。これが大いに注目を浴びているのは、08年から米国で実施された治験で、中程度の認知症患者にも効果があるとの結果が出ているからだ。

「他社がアルツハイマーになる作用メカニズムを探し、その仮説に基づいて新薬を開発しているのに対し、うちは脳神経の培養細胞などを用いて、その神経細胞などが死んでいくのを抑えると思われる薬を、いろいろ試し発見したのです」(富山化学工業の広報担当者)

 このT-817MAは現在、14年5月から開始したフェーズ2の段階にあるが、それも年内に投薬が終わるので、結果が良ければ、ほどなくフェーズ3に入ることになる。2021年の日米同時発売を目指しているという。このように、製薬会社が新薬の開発でしのぎを削っている一方で、既存薬を転用し、認知症治療に役立てようという動きもある。その代表と言えるのが、『国立循環器病研究センター』(大阪府吹田市)で行われている、抗血小板薬『シロスタゾール』のMCIの人向けの研究だ。

 シロスタゾールは、もともと脳梗塞の再発を防ぐ薬だが、14年の2月、それを服用していた高齢者の認知症進行度が遅いことに気づいたのだという。「認知症は“脳の糖尿病”ともいわれますが、シロスタゾールは、そもそも血流を良くする働きがありますから、糖尿病にも投与されます」(前出の牧氏)

 15年半ばから200例に及ぶ「医師主導治験」が始まっているという。「この医師主導治験は、主に患者が限られ、市場に出にくい新薬開発に実施されます。しかし、今回の場合は既存薬の転用で、期待もできる。既存薬の転用なので安全性の治験が省かれる分、うまくいけば製品化は早いでしょうね」(前同)

 今の治験は2018年に終了。製品化は早くて22年だという。また、今年3月には大阪市立大学などの研究グループが、結核などの治療薬(抗生物質)に予防効果があるとマウス実験で確認されたと発表。転用タイプは開発期間も短縮できるうえ、コストも低いため、今後も続々と出てきそうだ。

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