認知症にはいくつかの種類があり、その中で最も患者数の多いのが「アルツハイマー型認知症」だ。患者全体の約6割を占める。今回の法改正で設けられた検査は、そのアルツハイマー型の認知症をメインに想定したものらしく、他の約4割の認知症は見つけられない可能性があるというのだ。

「国内の認知症患者数は、2012年に462万人に達していました。その後も年々増加しており、厚生労働省の推計では、2025年には700万人を超えるといわれています」(前同)

 そう考えると、4割でも相当な数になる。「また、免許更新の時点では認知機能の低下がみられなくても、3年後の次の更新を待たずに認知症を発症する可能性は十分にあり、その状態のまま運転を続けることになります。これでは、“年を取ったら免許は返納しろ”ということにつながりかねませんよね」(同)

 認知症は高齢になるほど増える病気。車の運転を年齢で制限することも、ある程度は仕方がないとも思えるが、車がなくては生活できない人も多いはずだ。また、車の運転だけではなく、認知症はあらゆる面で生活に支障をきたす。なんとか認知症を遠ざける術はないものだろうか。そこで今回は、医学的に解明されて明らかになった認知症予防の最新の知見を検証したい。

「認知症は、これまで防ぐことができない病気といわれてきましたが、近年は病気のメカニズムも少しずつ解明されつつあり、予防できる時代になりました。特に、圧倒的に患者数の多いアルツハイマー型認知症については、原因物質もほぼ特定されています」 こう話すのは、認知症の専門医及び指導医で、東京医科大学病院高齢診療科の教授である羽生春夫氏だ。

「アルツハイマー型認知症の原因物質の正体は、脳の神経物質から放出されるアベータミロイドβというタンパク質です。症状が現れる20年以上前から脳内にたまり始め、老人斑というシミになって蓄積します。最近、これだけではなく、リン酸化タウというタンパク質の蓄積も、アミロイドβと密接に関わっていることが明らかになってきました。それらが作用して神経細胞を死滅させ、脳の萎縮が進むことで認知症が起きるのです」(羽生氏=以下同)

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