「さらに、毎晩飲酒をしていると、アルコールに対する耐性がついて催眠効果が弱まることが多いんです。結果として深酒になり、いつしか“飲まないと眠れない”という依存症の症状を呈してしまう。個人差もありますから、一概には言えませんが……」

 菅原氏によれば、晩酌はそこそこの量でとどめておき、できれば床につく3時間前には酒を切り上げて、眠りの前半の間に体内からアルコールが抜ける程度にするのがいいそうだ。

 いやはや、現代人の生活は、とにかく体内リズムを狂わせるような要素だらけ。これでは何時間眠っても、眠気が取れない人が出てきてしまうのも、仕方ない。そうした睡眠不足の恐ろしいところは、単に翌日に眠気を催すというだけではないところだ。米国の最新の研究から、睡眠不足の危険な“副産物”の存在が実証されようとしている。

「脳は睡眠中、ただ休んでいるだけでなく、脳内に溜まった“老廃物”の大掃除をしているようなんです。人間が体から老廃物を出すとき、血液やリンパに乗せて流しますが、脳には、その経路が発見されていませんでした。しかし、なんと睡眠中に脳の一部の細胞が縮み、その経路を作っていたんです」

 この大発見が、ある“仮説”に力を与えた。「睡眠とボケの関係です。眠りの質が悪い人の脳細胞の周りには、アミロイドといわれるタンパク質が多く生成されがち。そして、これが多いほど、将来的にアルツハイマー性認知症のリスクが高いんです。このアミロイドも、睡眠中に老廃物として流されるものの中に含まれますから、質の良い睡眠を十分に取ればボケにくくなるし、長く寝てもジャンク睡眠になってしまっていると、ボケのリスクが高まるということですね」

 これまでにも眠りとボケの関係は仮説レベルで指摘されてきたが、それが一段と科学的に裏づけられそうなのだ。今の時代に認知症が増えているのは、高齢化社会に加え、眠りの質が、この数十年で下がってきた証拠なのかもしれない。

 そして、仮に脳が十分休んでいたとしても、さらなる問題もあるという。「“日中に眠気を感じることはないし、自分は睡眠が足りている”と思っている人の多くが、実は隠れた睡眠不足を抱えているんです」

 必要睡眠時間が人によってまちまちというのは、前述した通り。それは脳を休める働きのためだけでもなく、インスリンや甲状腺ホルモンなど、ホルモンや自律神経系のバランスを取る時間も含まれている。

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