もちろん、高齢者でなくとも誤嚥するケースは少なくないのだが、「若かったり元気な方の場合は、むせたり、咳をすることで、誤って気管に入った物が、しっかりと外に出てくるのです。それに、食物や唾液が肺の中に幾分か残ったままになったとしても、免疫力の働きで細菌を除去し、自然治癒することで重篤化せずにすむのです」(前同)

 だからこそ、加齢とともに誤嚥は、その脅威を増していくのだ。では、高齢者にとって、生命すら脅かしかねない、この誤嚥性肺炎を予防する手立てはあるのか。まずは、自分が“予備軍”か、チェックしてほしい。

(1)痰がノドによく絡む
(2)食事中や食後にむせる
(3)寝ているときに咳をする
(4)ノドが詰まった感じがする
(5)食べ物や飲み物が鼻に流れる
(6)階段を少し上っただけで息切れする
(7)首の筋肉が硬い
(8)胸を大きく広げて息ができない
(9)背中や腰に違和感がある
(10)腹部があまり動かない

 この中で5つ以上該当する人は、ノドと肺の衰えによる誤嚥性肺炎予備軍と言えるという。では、肝心の誤嚥性肺炎の予防だが、3つのアプローチ法がある。1つ目は、ノドと肺を鍛えて誤嚥そのものを減少させること。2つ目は、口内を清潔に保ち、誤嚥したとしても感染する細菌を少なくしておくこと。そして、3つ目が体力・免疫力を向上させて、感染や重症化を防ぐということだ。

 2つ目に挙げたように、口内を清潔に保つのは、歯科の領域が重要となる。「歯磨きに加えて、歯と歯の間にはデンタルフロスと歯間ブラシを用いて、しっかりと歯垢を落としてください。歯垢は細菌増殖の大きな要因です」(歯科医)

 そして今回、本誌が重要視するのは、3つのアプローチ法で最初に挙げた部分。日常生活でなじみがあまりない、ノドと肺の“トレーニング”だ。では、ノドの鍛え方を説明しよう。「誤嚥は、食事の際、肺に通じる気道に蓋をする反射神経の衰えから来ている部分が大きいと言えます。ですから、ノドの筋肉そのものを鍛えるというのではなく、“飲み込む力”を衰えさせないことこそが重要です」(前出の渡会氏)

 飲み込む力の衰退は、誤嚥だけでなく、ノド部分に唾液が溜まってしまうことにもつながるという。通常、人はノドに唾液が溜まらないように無意識に飲み続けている。しかし、飲み込む力が衰えると、唾液がノドに溜まりやすくなり、これが肺を危険にさらすことになるという。

 また、睡眠中は唾液を無意識に気管に流れ込ませていることが多いという。前述のチェックの最初の5項目は、その飲み込む力に関するものである。飲み込む力の“老化”は、早ければ40代から進行しているというのだ。

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