■肉に含まれるタンパク質はアミノ酸のバランスがいい

 まず、“粗食こそが健康を導く”という点はどうか。実は、日本の平均寿命が世界トップクラスになったのは、野菜や魚を中心とした伝統的な食事に加え、食の欧米化などで肉類をたくさん食べるようになったことが大きいといわれる。「肉に含まれるタンパク質は、植物性タンパク質と比べてアミノ酸のバランスが非常にいいのです。アミノ酸は、筋肉はもちろん皮膚や血液、髪の毛など人体の材料になります。このアミノ酸バランスがいい肉を中高年になってもたくさん食べることが、健康長寿の秘訣と言えます」(前出の柴田氏)

 一方で懸念されるのが、カロリーや脂質、コレステロールの高さが健康を害するのでは、という点。実際、100グラム当たりの米飯と肉を比べると、肉のほうが米飯より2~3倍ほどカロリーが多い。カロリー過多になると短命で老化が早まることは米国・ウィスコンシン大学のアカゲザルの実験で示されており、「カロリー過多のサルは動きも不活発で毛並みが悪く、その写真が公開され話題になった」(前同)が、「別な研究チームが同じような実験をしたところ、寿命や健康状態に、ウイスコンシン大学の実験ほどの差がないことが明らかになりました。2つの研究結果は、せいぜい、あまり食べすぎると健康に良くないということだったのです」(同)

 柴田博士の研究では、中高年は若い頃より10キロぐらい太っている小太りの人のほうが長生きするとの結果が出ている。「最近は肥満が悪者扱いされていますが、日本人のカロリー摂取量はむしろ足りないぐらいなのです」(同)

 肉はカロリーが多いので、肥満や糖尿病などになるこれもおかしいようだ。東京医科歯科大学名誉教授の藤田紘一郎・医学博士は自身が糖尿病になった際、担当医師からカロリーを抑えるように言われたという。「このため肉を控えたのですが、ぜんぜん改善しない。問題は炭水化物(糖質)にあると気づき、これを控えると糖尿病が一気に治ったのです」 藤田氏の結論は、「50歳を過ぎたら肉の摂取量を増やし、炭水化物を控えたほうが健康にいい」(前同)というものだそうだ。

 では、肉は脂肪が多いので、食べないほうがいいという考えはどうか?「脂肪も、カロリーと同様に悪者扱いされていますが、実は非常に重要な栄養素。脂肪酸が少ないと、逆に死亡率が上昇することが、さまざまな研究で明らかになっています。日本一の長寿県で有名だった沖縄は、ここ十数年で順位がどんどん落ちました。これは脂肪摂取量の低下と比例していて、実際、今の沖縄では脂肪摂取量が全国の平均を下回っています」(柴田氏)

 実は、日本人全体で見ても、この脂肪摂取量は少ないという。「肉は脂肪が多いからと敬遠するのではなく、むしろ脂質のバランスを考えることが大切です」(前同) 食物の脂肪分は肉やバターなどに多い飽和脂肪酸と、オリーブオイルなどに多い一価不飽和脂肪酸、サラダオイルなどの植物性油脂、そして魚介類に多い多価不飽和脂肪酸に分けられる。「肉を避けて脂肪摂取量を減らすより、3種類の脂肪酸をバランスよく摂ることが大切なのです。現代の日本人の平均的な食生活でいえば、肉と魚を半々に食べる食生活にすることでしょう」(同)

 コレステロールが多い肉や卵などを食べすぎると動脈硬化になるといわれるが、これもむしろ、その不足を心配したほうがいいようだ。「食事でコレステロールをどれだけ多く摂っても、血中のコレステロールには天井値があるため、それ以上上がることはありません。私は多く摂りすぎる心配より、不足することを心配するほうがいいと思っています」(同)

 悪玉扱いされるコレステロールだが、これは、体には必須の脂質で、ホルモンの材料になったり、脳細胞や細胞膜の材料になるなど、体内でさまざまな働きをしている。「コレステロールが少なくなると、脳で働くホルモンなども不足して認知症が助長されます。認知症予防のためにも、中高年はコレステロール不足を心配したほうがいい」(前出の藤田氏)

 90歳近くまで舞台ででんぐり返しを披露した女優の森光子さんも、コレステロールたっぷりの卵を1日3~4個食べていたというという。これらを考えても、粗食より、“肉食”のほうが、より健康に長生きできるようだ。

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