宮崎あおいの絶対的孤独

 宮崎あおいの名が広く知られるようになったのは、2005年公開の映画『NANA-ナナ-』からだろう。

 原作は矢沢あいによる同名の大ベストセラー少女漫画。映画もヒットし、宮崎あおいは2006年にNHK朝の連続テレビ小説『純情きらり』の主役、2008年にはNHK大河ドラマ『篤姫』の主役(放送開始時の22歳1か月は史上最年少記録だった)を立て続けに演じ、一気に人気女優の階段を駆け上った。

『NANA』の主人公は、「なな」という同じ読みの名を持つ同い年の二人の女性である。宮崎あおいが演じる小松奈々は、上京する新幹線のなかで中島美嘉演じるミュージシャン志望の大崎ナナと出会い、共同生活を始めることになる。

 この二人のキャラクターはまさに対照的だ。大崎ナナは天涯孤独の身でクールな性格だが、反面繊細な部分もある。一方、小松奈々は、一般的な家庭に生まれて公立の女子高に通った。無邪気で純粋だがそれゆえ失敗もする。

 宮崎あおいは、この小松奈々という、いかにも古典的な少女漫画のキャラクターを見事に演じ切っている。ただ女優としての彼女をずっと見てきたひとにとっては、その役柄に違和感もあったのではあるまいか。

 宮崎あおいの映画初主演作は2002年に公開された『害虫』である。

 彼女が演じたのは中学1年生の北サチ子。不登校の日々を送っている。母親と二人暮らしで父親はいないが、そのことが学校に行かない理由かどうかは分からない。そもそも理由などないのではないか、そう思わせるほどあっさりと学校へ戻っていったりもする。

 社会常識的には、不登校は解決しなければならないものだろう。だがこの映画では、不登校とそうでないことの間には差がない。サチ子が生きているのは、日常でも非日常でもない、ただ流れゆく時間である。極端に口数の少ないサチ子の無機質とも言いたくなるくらいの醒めた表情からは、ひしひしとそのことが伝わってくる。

 ただし、サチ子は怠惰なわけではない。むしろなにを考えているのか計りかねる感じだ。お金欲しさに援助交際や当たり屋をしようとしたり、唯一親身になってくれるクラスメートの女子が好きな男子から告白されるとあっさり交際してしまったりもする。そしてあげくの果てにそのクラスメートの家に遊び半分で火炎瓶を投げつけて火事を起こしてしまい、事の重大さに気づいた彼女は街から逃げ出してしまう。

 サチ子が向かうのは、小学校時代の元担任の住む秋田。彼はサチ子と恋愛関係になり、それで教師を辞めてしまったと噂されるが、その真相もよくわからない。近くまでヒッチハイクでたどり着き、約束の店で待つサチ子。ところが彼女は、その店に偶然居合わせた男性の口車に乗り、その男の車で店を後にしてしまう。店を出ようとする車の中から、急いで駆けつけた元担任の姿を見つけるサチ子。しかし彼女は車から降りようとはせず、そのまま走り去る……。

 誰も幸福にならない結末である。カメラは突き放すように、破滅に追い込まれていくサチ子とその周囲を淡々ととらえ続ける。「害虫」とは、悪意なき悪意で周囲に被害を及ぼすサチ子のことだ。誰も彼女を理解できないし、彼女も理解してもらおうとする素振りすら見せない。つまり、彼女は絶対的に孤独なのだ。

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