21世紀の日本の心象風景

 実はこの元担任の男性、いまは秋田の原発で働いている。東北地方の原発。そのことを知るとき、どうしても東日本大震災のことが思い出されてしまう。

 先ほどふれたように『害虫』の公開は2002年。東日本大震災のはるか前である。だから、結びつけてしまうのは考えすぎというものかもしれない。しかしこの映画には、3.11以後を生きる日本人の心象風景がもうそこにあるように思える。実はあの3.11は、21世紀に入った平成を生きる日本人のこころのなかにすでにあった、生きる基盤の崩壊感、そしてそこからくる深い孤独感を顕在化させただけだったのではないか。

 この連載で以前、優香ら癒し系アイドルが世紀末にブレークした話を書いた。その背景には、ただなんの目標もなく続いていく日常への疲労感があるとも書いた。

 だがそのころすでに、私たち日本人の心中には、なにかが決定的に壊れてしまった感覚が芽生えていたのかもしれない。『害虫』のなかの十代の少女・北サチ子は、その崩壊感覚の結晶のようにほとんど無言のままそこにただ存在している。それは、『EUREKA』(2001)で宮崎あおいが演じた、凄惨なバスジャック事件に遭遇したことでこころに深い傷を負った寡黙な少女・田村梢とも響き合っている。

 では、どのようにすれば、そうした孤独からの脱出は可能なのか? それはきっと、周囲との関係性をもう一度つくっていくところから始まるのだろう。

『ラヴァーズ・キス』(2003)は、鎌倉を舞台にした吉田秋生の同名少女漫画の映画化である。

 宮崎あおい演じる高校1年生の川奈依里子は、二つ上の姉の親友に思いを寄せる。だがその女性は、男性の恋人がいる姉のことを長年思い続けている。依里子の思いは受け入れられることはない。だが、そのことで決定的に相手との関係性が壊れてしまうわけではない。また依里子は、やはり同性である男性に恋心を抱く男子同級生と親友でもある。

 この作品では、男性と女性、男性同士、女性同士、どの恋愛関係が特別ということはない。そしてタブーでもない。誰かを「好き」という感情だけが大切で、性別は端から問題ではない。そこには失恋や葛藤、過去のトラウマもある。しかし、根底には人と人とがつながっている感じがあってどこかほのぼのと温かい。

 ちょっと不思議な、現実にありそうでないユートピアのような世界である。しかし21世紀的なつながりとは、こんな感じかもしれない。そう思わせてくれる作品でもある。ここでの宮崎あおいは感情を表に出し、時に饒舌だ。

平成アイドル水滸伝

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