●上戸彩が演じた性同一性障害

 いま平成は学園ドラマ不遇の時代であるようなことを言ったが、『金八先生』は第8シリーズまで作られ、昭和から平成にまたがる長寿シリーズになった。

 そのなかで2001年秋から放送された『金八先生』第6シリーズに出演したのが、当時16歳の上戸彩である。

 上戸は1997年の「全日本国民的美少女コンテスト」で審査員特別賞を受賞して芸能界入り。1985年生まれの彼女は当時まだ小学6年生だった。このコンテストは、その名の通り「美少女」がコンセプトのオーディションである。1980年代後半、後藤久美子で美少女ブームを巻き起こしたオスカープロモーションが新たな美少女発掘を目論んで始めたとされる。

 ところが、『金八先生』で上戸彩が扮したのは学園ドラマによくある美少女役ではなかった。上戸演じる転校生の鶴本直は、性同一性障害で悩んでいる。最初はそうであることを隠し、クラスメートとも交わろうとしない。それもあって無用の誤解から一部のクラスメートと対立するなど、たびたびトラブルを引き起こしてしまう。さらに親にも理解してもらえず、孤立感を深める直。だが、金八をはじめ周囲の人びとの支えのなかで少しずつこころを開き、最後はクラス全員の前で自らが性同一性障害であることを明かす。そして卒業式に、直は学ランを着て臨む。

 当時はまだ現在のように「LGBT」という言葉もなく、理解も進んでいない時代である。しかもそうしたテーマを中学が舞台のドラマで描くことはきわめてチャレンジングなことだったに違いない。

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