■ひとりで広げた卒業証書
その後、たびたびメールをするようになり、どちらかが「どうしても明日行きたくない」とメールをすれば、「じゃあ朝、本屋さんで」と待ち合わせをし、自転車で海に向かう日々を過ごしていました。
「運動会の練習で一生懸命声をだしても”聞こえない”って怒られる」「地声のでかい人はデリカシーがない(※もちろんそんなことはないと思いますが、当時はそう思ってつらかった)」
お互い共通してよく話していたのは、「学校行きたくないけど、卒業の資格はどうしてもほしい」ということでした。わたしが卒業の資格が欲しかったのは、ただたんにどうやって生きていけばいいのかわからないから。だけど、彼にはなにかやりたいことがあったのかもしれません。そこまで仲がいいわけでもないので聞いたことはありませんが、今となっては、それくらい聞いておけばよかったなと思います。
もちろん、そこでマンガのように恋がはじまるわけでもなく、おたがいが「自分だけ先に楽になろうとするなよ」と牽制し、見張りあっているようでもあったし、「自分を置いて先にいかないでほしい」と懇願するような気持ちもありました。
無事に卒業をしたあとは、お店で出会うこともなくなり、連絡先もいつの間にか知らなくなっていました。消したのか、変わったのか、なにも思い出せません。
ただ、夏が近くたびに、「学校に好きな人とかいたら楽しいのかな」と話したことを思い出します。
体育祭の準備とかうきうきしてみたかった。
卒業式では、「好きな人にもう会えなくなるんだ」と思って悲しい気持ちになってみたかった。
校舎からこっそり部活をながめたりしたかった。
でも、卒業式のわたしがしたことといえば、ひとりで校舎を出て、同級生が絶対に来ないであろうイトーヨーカドーのベンチに座り「卒業できたんだなぁ」としみじみ思うことでした。