■病院は天国?

蝮 そういった意味で、我々の年代は恵まれてますね。ギリギリで戦争に行くことがなかったしね。ウチの兄貴は2人とも戦争に行きましたよ。両方とも生きて帰ってきたけど。

三 本当に、そうですね。

蝮 俺も大病を2回ぐらいやってるんですよ。

三 どんな病気ですか?

蝮 終戦直後に、発疹チフスというのをね。4割ぐらい死ぬんですよ。40日間入院してね。なんとか助かりましたが。それから、13年ぐらい前に、腸閉塞……一種のがんですよ。20センチぐらい切って。幸い、転移もしてなかったんですけど。

三 よかったですねえ。

蝮 医者に言わせると、患者が“病気や怪我を治したい、元気になりたい”と思うことが大事らしいですね。前向きになることが。

三 76歳のときにスキーの事故で、左大腿骨付根と骨盤4か所を骨折して。3か月入院したんです。

蝮 うわ~。

三 1か月は寝返りも打てなかった。そのとき、しみじみ思ったんです。“ヒマラヤのテントに比べりゃ、病院は天国だ”って。

蝮 そうか。空気は薄くないし、ブリザードが起こることはない。三食昼寝つきだしね。

三 好きなときに本を読んだり、テレビを見たりできる。看護師さんがあれこれ気遣ってくれる。2~3日いたら、“ああ、ここは天国だ”ってね。

蝮(膝を叩いて)こりゃ、いいこと聞いたな。確かに病院にいれば朝早くから仕事に行かないでいいしね。借金に追われていても、借金取りは来ないし。

三 人間というのはね、小さい希望を持つことが大事なんだと思います。そのときは寝返りも打てなかったから、“寝返りが自分で打てたらどれだけ素晴らしいか”って思いました。次は、“松葉杖で歩けるようになったらどんなにうれしいか”って。そうやって、小さな目標を積み重ねていくと前向きになれるんです。

蝮 三浦さんの場合は、その延長にエベレストやアコンカグアがあったわけだね。でも、もっと身近な目標でもいいわけですよね。

三 そうそう。なんだっていいんです。“治ったら温泉に行こう”とかね。

蝮 よく、高齢者の方に、“来年、オリンピックを一緒に見ようね”なんて励ますんです。あんまり遠い目標じゃないほうがいい。

三 僕もね、5年おきに目標を決めてやってるんです。5年周期というのは、ちょうどいいです。

蝮 その目標のために、三浦さんは片足2キロの重りが入った靴をはいて歩いてるんですよね。

三 ここにありますよ(近くにあった特製のダンベルシューズを持ってくる)。

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