■裁判で勝つには?

 では、こうした点に注意しても、不幸にも、あおり運転に遭遇してしまった場合は、どうすればいいのか。約20年前に、あおり運転の被害に遭い、それに対抗して民事訴訟を提起し、勝訴した経験を持つ『横浜ユーリス法律事務所』(横浜市中区)の工藤昇弁護士に話を聞いた。「私があおり運転の被害にあったのは、1998年10月のある日の午後1時すぎでした。妻と当時3歳の長男を乗せて、神奈川県鎌倉市内から東京都八王子市方面に向かうために国道を走行中、若い男が一人だけ乗ったオープンカー(マーチ)に後ろから何度も異常に車間距離を詰められたんです。赤信号で停止した際に、相手は降車して私の車の窓を叩き、対応を求められました。約8分間にわたる、こうしたあおり行為は、非常に恐怖を覚えました」

 幸い、交差点で相手は右折。大事には至らなかったが、なぜ、被害に遭ってしまったのか。「私は弁護士という職業柄、制限速度を特に順守する必要があったんです。事件現場となった道路は片側1車線で、停車する幅の余裕もなかったので、後続の車を先に行かせることができなかった。そのため、後ろについた車が腹を立ててしまったんでしょう」(工藤氏)

 工藤氏は、異常接近する車に対し、助手席の妻にビデオ撮影を依頼。結果として、このビデオが裁判での勝利につながったという。「相手は裁判で、先に進路妨害を受けたと話していました。また、異常接近については、妻に依頼したビデオ撮影に気づき、それに抗議するためにやったと主張していました」(前同)

 裁判ではその後、相手は上告までしたが、工藤氏の主張が通り、請求した10万円満額の慰謝料が認められた。「当時はまだあおり運転は注目されておらず、刑事告訴は保留しましたが、刑事罰に問えそうなら、そちらを優先したほうがいいです。今なら私の事例程度なら、30万円ほどの慰謝料は取れるのではないかと思います」(同)

 民事の場合は損害賠償請求にならざるをえないが、刑事の場合なら、道路交通法違反(車間距離不保持、安全運転義務違反など)はむろん、もっと罪の重い暴行罪、強要未遂罪にも問えうるとも。「刑事告訴したほうがいい理由の一つに、相手の特定をしなくていい点があります。民事の場合は自分たちで相手の氏名を特定し、なおかつ自分の名前なども公表しなければなりません。刑事であれば氏名不詳でも告訴可能です。とはいえ、民事の場合でも、弁護士に協力を仰げば相手のナンバーさえ分かれば、その車の所有者を特定することができます」(同)

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