■年金の繰り下げ受給を75歳まで拡大するプランは?

 経済アナリストの森永卓郎氏は、今回の改革の問題点を「死ぬまで働けという“国家総動員政策”にあると考えています」と語る。それを象徴しているのが「年金の繰り下げ受給を75歳まで拡大する」というプランだ。

「現在の年金の受給開始年齢は65歳。加えて60歳からの繰り上げと70歳からの繰り下げ受給も選択可能です。繰り上げ受給では年金額が減額される一方、繰り下げると増額されます」(全国紙社会部記者)

 現行の制度では70歳まで繰り下げた場合、年金額は42%増える。つまり、年間100万円の年金なら、5年間受給を遅らせると142万円となるわけだ。82歳以上の寿命を全うしたら、65歳から受け取るケースより、総額でもらえる年金額は多くなる。人生100年時代といわれる今、これまで本誌でも繰り下げ受給を薦めてきた。

 しかも、安倍内閣が検討しているプランでは、繰り下げ受給の開始年齢の上限を75歳へ引き上げ、受給額を最大で84%増額するという大盤振る舞い。年金の受け取りを10年間遅らせたら、ほぼ2倍の額がもらえることになる。しかし森永氏は、そこに落とし穴があると指摘する。

「公的年金が8割も増える――そんな夢のような数字が新聞に躍りましたが、定年から75歳まで無年金で耐えられる人は、ほとんどいない。現在でも繰り下げ受給を選んでいる人の割合は1%に過ぎません。さらに、男性の健康寿命は72歳。介護施設に入ってから高い年金をもらってもしかたがないじゃありませんか」

 これでは「国民をできるだけ働かせ、年金額をカットしようとする政策」(前出の野党議員)と受け取られても不思議はない。

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4