■平尾龍麿受刑者の脱走事件によって

 ここで思い出されるのが、冒頭で紹介した平尾受刑者の脱走だ。平尾受刑者はいじめのような指導があり、「下の者は奴隷扱いだったことを告発する意図もあり脱走を試みた」との一部報道もあった。

「(報道によると)平尾は造船場の社員用の白いヘルメットを、後輩を驚かそうと被り、それがバレて自治委員から新人の身分に落とされたといいます。規律を重んじる寮では、私がいた頃も、気に食わない奴の荷物に、一般の作業員の捨てたタバコの吸殻を入れ、それを発覚させて本所に戻す、なんて悪どい者がいましたが、平尾は中堅の地位になり浮かれてのことでもあり、同情の余地はないと思います。確かに理不尽と思える決まりもありますが、これも忍耐力を養い、集団生活に慣れ、社会復帰するためのものだと今は感じています。ガチるのだって、別に憎くてやっているのではなく、自分の地位の役目を演じているだけのように、私には思えました。私がいたときは、体罰もありませんでした。理不尽ないじめもなかったですよ。ところが、平尾の脱走で自治会は停止になり、定員も激減したと聞きます」

 また、大井訓練生時代、体力がなかったA氏が一番ガチられたが、体力がないだけで本所に戻されることはなかった、とも話す。

 A氏が激白手記で一番訴えたかったことは、「平尾受刑者の軽率な行動の結果、『開放型施設』が厳格化、縮小することへの懸念」だと言う。

 大井は職業訓練が充実しており、受刑者の社会復帰を大きく手助けしているという側面がある。

「溶接、ガス切断、クレーン、フォークリフト、危険物取扱資格など。自分が出所して、この年ですぐ仕事に就けたのは、このフォークリフトの資格が役立ったんです」

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4