■転倒して骨折、寝たきりに

 特に危ないのが、65歳以上の高齢者だという。高齢者の場合、転倒事故の8割近くが自宅で起きているといわれる。高円寺整形外科の大村文敏院長が、こう語る。

「怖いのは、転倒して骨折してしまい、それが引き金となって寝たきりになってしまうことです。転倒して大腿骨を骨折すると、手術しても1年以内に1~2割の人が死亡し、2年たつと3割までが死亡するというデータがあります。脳梗塞や心筋梗塞の手術後の数字よりも、死亡率が高いといわれているんです」

 まさか骨折が原因で死ぬことになるとは夢にも思っていないだろうが、これもまた現実なのだ。「寝たきりになって肺炎や腎炎を併発し、あるいは床ずれによる感染症が死に至らしめるわけです。高齢者が寝たきりになる理由としては、骨折や関節(ひざ)疾患の運動機能障害が25%で、ダントツです」(前同)

 都内で介護老人保健施設の施設長を務める新潟大学名誉教授の岡田正彦氏も、こう語る。

「とにかく入居者に骨折させないよう、スタッフ一同、細心の注意を払っています。まず高齢者になると、反射神経が鈍くなり、筋力が低下して、ほんのわずかな段差でも転倒してしまいます。一方、ここ70年で日本人の寿命が大幅に伸びましたが、骨と脳の遺伝子が寿命の伸びに追いついていない現実があります。つまり、それだけ骨粗しょう症や認知症の患者が増えているわけです」

 高齢者の場合、転倒しやすく、骨折もしやすいのだ。前述した通り、寝たきりになって、肺炎・腎炎・感染症を引き起こすほか、岡田氏によると、「認知症になるリスクが高まります。寝たきりで何もできない状態が認知症を誘発しやすくなるんです」と言う。

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