重要なのは、現実と虚構の狭間に立つようなこの作品が、「アイドル」として生きる人間のライフコース全体を想像させるものになっている点である。アイドルはとかく、若年の限られた期間に人々の注目が集中しやすい。だが、アイドルとしての活動期を生きる彼女たちには、それと地続きに「アイドル」前の人生も「アイドル」以後の人生も、等しい尊さをもって当たり前に存在する。「拝啓、橋本奈々未様」がもつ特有のバランスは、そうした本来当然であるはずの事柄に対する想像力を、ごく自然にみせてくれる。

■アイドルを人生の一部として相対化したように見える橋本奈々未

 橋本はこの個人PV以後もおよそ4年にわたり乃木坂46に在籍するため、この作品は彼女自身の「卒業」に直接紐づくわけではない。けれども、「アイドル」をあくまでライフスパンの一部として相対化してみせるような彼女の活動の軌跡を考えるとき、「拝啓、橋本奈々未様」が見据える射程は広い。それは現在、橋本が当時とは明確に異なる段階にいるからこそ、あらためて感じ取れることでもあるだろう。

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4