3月10日更新分(/articles/-/73162)で取り上げた柳沢翔監督による個人PV『MILK』では、堀の身体を通して異質な他者同士がぎこちなく対峙してゆくさまが描き出されたが、堀は『ゆるす!』においても映像作家の個性を純度高く抽出するための依代(よりしろ)になっている。

 同時に山岸の演出も、堀のもつ飄々とした佇まいを最大限に活かし、一人の俳優としての彼女の強みを取り出してみせた。このように、アイコンとして主演を務めるメンバーと監督の作家性とが共鳴し合い化学反応を起こすチャンスが、個人PVという場には豊かに存在している。

■個人PVからMV作品につながっていく

『ゆるす!』で生まれた山岸と堀との好相性は、山岸が乃木坂46のMVを監督するようになってからも継続していく。『ゆるす!』の翌年、12枚目シングル『太陽ノック』に収録されたアンダーメンバー楽曲『別れ際、もっと好きになる』では、同曲のセンターとなった堀が再度、山岸作品の主役を務める。

https://www.youtube.com/watch?v=8_sadJU4sbI
(『別れ際、もっと好きになる』MV予告編)

 弁当屋に勤務する外国人労働者に一目惚れする堀の実らない恋を描いた物語だが、作中で具体的な情景として映像化される彼女の突拍子もない夢想は、堀の淡々とした表情ゆえに絶妙の空気感を生み出す。

『別れ際、もっと好きになる』は堀がアンダーのセンターに立つというキャリア上でも稀有な楽曲であり、またこの12枚目シングルは2期生全員が初めて正規メンバーの立場で制作に参加したタイトルでもある。堀をはじめとする2期生のキャリアにおいてもひとつの画期となったこの楽曲の世界観は、山岸のユニークなイマジネーションによって豊潤なものになった。

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