■長嶋茂雄と初対面の瞬間

 8月31日――“運命の日”。王の両親は店を臨時休業とし、報道関係者に親族会議の場所を知られないように、朝早くに家を出た。親族会議は、王の親戚が経営する横浜の中華料理店で行われた。後日、報知のデスクが王の叔父の川口から聞いたところによれば、会議で口火を切ったのは兄の鉄城だったという。「貞治、まず、おまえは、どこに行きたいんだ? それが一番重要なはずだ」

 すると王は、「僕は巨人に入りたい」と答えたという。鉄城が、「分かった。あとは大人に任せなさい」と言うと、緊張が解けたのか、王は母親の膝枕で、すぐに寝息を立ててしまったとか。会社で親族会議の結果を待っていた報知のデスクに、電話が入った。「5人いるんですが、横浜まで車で迎えに来てくれませんか?」

 電話の主は鉄城だった。どうやって嗅ぎつけたのか、店の前には報道陣の人だかりができてしまっているという。デスクは店の裏口に2台の車を手配し、鉄城と川口を宇野代表が待つ銀座のふぐ料理店に、王と両親を銀座のレストランに送り届けた。鉄城は宇野代表と条件面の最終確認を終えると、「巨人でお世話になります」と頭を下げ、店の電話を借りて、阪神、中日、大洋、阪急と早慶野球部に断りの電話を入れた。正式な入団発表は10月4日となるが、事実上、この日に王の巨人入団は決定した。阪神入り濃厚と報じた8月22日付の日刊スポーツの記事から、約10日の間の出来事だった。

 王が巨人入りを決めた2日後の9月2日、報知新聞は、広島遠征に出発する巨人ナインを王に見送らせた。「いや~、君が王くんか。一緒に頑張ろう」

 すでに巨人の4番を任されていた長嶋茂雄は王に、こう言葉をかけた。これが、ON初対面の瞬間だった――。(文中一部=敬称略)

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