■空前絶後の9連続奪三振

 さて、“お祭り男”と呼ばれるのは決まって打者ばかりだが、ときには投手が主役になる場合もある。71年の第1戦は、その典型。そう、江夏豊(阪神)による「空前絶後の9連続奪三振」である。「江夏は前年、5連続を含む8奪三振をマーク。実は試合前、“今年は9連続を狙う”と予告していたんです」(前出の元記者)

 そして、この試合に先発した江夏は、先頭打者の有藤通世(ロッテ)から9番の代打・加藤秀司(阪急)まで、バッタバッタとすべて三振に討ち取ったのだ。まさに、有言実行となったその投球はすさまじく、味方さえ舌を巻いた。「川上哲治監督から、冗談で“おまえ打ってみるか?”と聞かれた柴田勲(巨人)は、即座に“イヤです!”と返答。セのベンチは大笑いに包まれました」(前同)

 しかし、記録はこれで終わりではない。江夏の奪三振は、前年から数えると14人連続に。加えて、この年の第3戦でも三振を奪ったので、2年越しで「15人連続奪三振」という驚くべき数字になっているのだ。「江夏の記録をストップさせた16番目の打者は、野村克也。試合後、“パの一員として、連続(三振)だけはなんとしても止めたかった”と語っていたそうです」(同)

 ちなみに、9連続奪三振をマークした試合で、江夏は打者としても3ランを放つ千両役者ぶりを見せているが、同試合ではもう一つ、すごいことが起きていた。「江夏の後、渡辺秀武(巨人)、高橋一三(巨人)、水谷寿伸(中日)、小谷正勝(大洋)の5投手で“継投でのノーヒットノーラン”を達成したんです。これは史上初の快挙で、以降も例がありません」(同)

 そんな江夏の金字塔に挑んだのが江川卓(巨人)だ。84年の第3戦、2番手として登板した江川は、8人連続で三振を奪い、江夏の記録まであと1つと迫った。「球場に江川コールが起こる中、打席に入ったのは大石大二郎(近鉄)。捕手の中尾孝義(中日)から“三振してやれ”と囁かれると“冗談じゃない”と吐き捨てたとか」(ベテラン記者)

 2ストライクと追い込んだものの、大石は3球目のカーブを強引にバットに当てセカンドゴロ。記録は「8連続奪三振」に終わった。「試合後、江川は“なかなか9連続はできないもんだね。2度もチャンスはあったが、これも私の野球人生を物語っている”と淡々と振り返っています」(前同)

 これには、どんな意味があるのか?「実は、江川は80年のオールスター第3戦でも7三振を奪っています。すんなり行かない人生を自虐的に語ったんでしょう(笑)」(同)

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